「RISC-V」自動車領域にも浸透、中国企業も活用へ
完全にオープンな、コンピュータの命令セットアーキテクチャ(Instruction Set Architecture: ISA)である「RISC-V」の応用領域が自動車業界へと広がっている。グーグル、クアルコム、インテル、華為(ファーウェイ)、阿里雲(アリババクラウド)といった内外の大手企業がライセンス料不要のRISC-Vをベースとした自動車向けプロセッサ開発に取り組んでいる。
RISC-Vをプロセッサ設計に利用することで、チップ設計を改善できるほか、開発コストを大幅に下げられる。特に中国企業にとって、オープンソースアーキテクチャは、海外から急所を抑えられるような「制裁リスク」が存在しないため、中国が半導体チップ国産化を実現する手段の一つとなりつつある。
RISC-Vは近年、国内外の多くの企業が注目している。2015年に創設されたオープンハードウェア標準の世界的団体である「RISC-V International」の会員企業は現在3,180社に上る。その中には中国企業が多く含まれ、25社のプレミアメンバーのうち14社は、阿里雲、晶心科技、華為、中興通訊(ZTE)などの中国企業だ。
■RISC-Vのエコシステム
RISC-Vはプロセッサでもチップでもなく、命令セット・アーキテクチャだ。 命令セットはチップにさまざまな計算命令を実行させる。この命令セットの重要な領域は、米インテルの「x86」アーキテクチャと英ARMアーキテクチャが占め、特にARMが絶対的な独占権を握っている。 ARMのISAとIPコアは使用料を支払う必要があり、そのコストは近年上昇し続けている。そのため多くのチップ大手は、オープンソースでコスト削減が可能な新しいRISC-Vアーキテクチャに注目するようになった。
RISC-Vの核となる利点は、基本的なISAとIPコアはオープンソースでライセンスが無料であり、モジュール設計(シンプルなアーキテクチャ)と組み合わせることで、チップ設計工場のコストを削減することができる。
また、強い技術力を持つチップ設計企業は、基本ISAまたはIPコアを基にカスタム拡張を行い、より製品要件を満たすIPコアを開発する。この改良されたIPコアを他のチップ設計工場に有料でライセンスするというビジネスモデルが生まれており、より多くの企業が「RISC-Vエコシステム」に参加するようになっているのだ。
■電動化する自動車業界の風雲児に
RISC-Vを開発した研究者らが創立した米ファブレス半導体企業のSiFiveの共同創立者兼チーフアーキテクトのクルステ・アサノビッチ教授は、6月末に上海市で開かれた「中国技術フォーラム」で登壇し、「RISC-Vはスマート運転の分野に導入できる可能性が高い。SiFiveはすでに関連ソリューションを発表し、多くの国内外の自動車めーかーやチップ大手と協力して推進している」と明らかにした。SiFiveは昨年、同時に3つの車載グレード・コア(E6-A、X280-A、S7-Aソリューション)を発表している。
車載向け制御装置(MCU)開発の南京沁恒微電子(江蘇省南京市)は、RISC-Vアーキテクチャに基づくMCU製品を発表している。
日本の半導体大手のルネサスエレクトロニクスも、RISC-Vアーキテクチャに基づくCPUやMCUを早くから開発していることで世界的に知られている。
車載用チップの検証サイクルは長期間にわたるため、自動車業界ではまだRISC-Vは各社で本格的な量産化には至っていないものの、各社での積極的な技術開発によって性能が改善されるにつれて、市場が急速に拡大する可能性もある。
蓋世汽車によると、RISC-V Internationalは、これまでに世界中で100以上のRISC-Vプロセッサが開発され、25年には800億個が出荷されると予測している。