IC設計の国科微、中芯寧波を買収へ=RFフィルターの国産化に本格着手

半導体設計開発を手がける湖南国科微電子股フン(GOKE、湖南省長沙市)は5日、RFフィルターの開発などを手掛ける中芯集成電路(寧波)(浙江省寧波市)の株式の94.366%を取得すると発表した。国科微はすでに音声・映像のコーデックやストレージ制御チップなどの分野で国産化を実現してきたが、今回の買収により、長年ボトルネックとされてきた高性能な射頻(RF)フィルターの分野にも本格参入する。
中芯寧波は2024年末時点で総資産43億1400万元(約862億8000万円)、売上高4億5400万元を記録しており、買収後は国科微の資産規模と業務能力が大きく向上する見込みだ。
国科微はすでに音声・映像のコーデックやストレージ制御チップなどの分野で国産化を実現してきたが、今回の買収により、長年“ボトルネック”とされてきた高性能射頻(RF)フィルターの分野にも本格参入する。
中芯寧波は2016年、ファウンドリー(半導体の受託製造)大手の中芯国際集成電路製造(SMIC)や国家の半導体ファンド、国家集成回路産業投資基金など複数の有力機関が共同出資する形で設立した。射頻(RF)フロントエンド、高電圧アナログ回路、光電融合技術といった特種半導体分野の開発に特化。8インチウエハー対応の製造ラインを2本保有しており、このうち「N1」工場は18年に量産を開始。続いて、「N2」工場は20年に建設がスタートしており、生産能力の拡張が進んでいる。
ビジネスモデルとしては、専門性の高いウエハー受託製造に加え、顧客のニーズに応じたカスタマイズ設計サービスも提供。製品は5G(第5世代移動通信システム)、スマート家電、産業用IoT(モノのインターネット)などの戦略的新興産業に広く応用されている。
特に注目すべきは、中芯寧波がBAW(バルク波)フィルター領域でコア技術を保有している点だ。BAWフィルターは、極めて高度な薄膜堆積やマイクロ機械加工を要するため、これまでBroadcomやQorvoといった海外大手企業が市場を独占してきた。しかし中芯寧波は、自主開発によりSUB-6GHz全周波数帯を網羅した製品群を確立し、「全周波数帯×全工程」量産を可能にした中国国内の希少な企業となっている。
国科微は、中芯寧波の戦略的買収によって「デジタルチップ設計+アナログチップ製造」のシナジー体制を構築する。これにより、RFフロントエンドやMEMSセンサーといった特殊工程での製造能力が強化され、スマートフォンやコネクテッドカーなど、急速に成長する分野において全産業チェーンのソリューションを提供できるようになる。また、我が国の高性能チップ分野における自主可控力の向上にも寄与する。
一方、中芯国際(SMIC)は6日、公告で同社の全額出資子会社である中芯国際控股が保有する中芯寧波の14.832%の株式を国科微に譲渡すると発表。取引完了後、中芯控股は中芯寧波の株式を一切保有しないことになる。
国家政策が後押しするM&Aの波
ここ数年、中国政府は資本市場の環境整備を進め、上場企業の合併・買収(M&A)による産業統合と質の高い成長を積極的に支援している。特に24年以降は、国務院(中央政府)や証券監督管理委員会(証監会)がM&Aに関する複数の方針を相次いで打ち出し、未上場や赤字のハイテク企業の買収に対する制限を緩和した。
25年には、重大資産再編の総額が前年比11.6倍の2000億元超となり、うち40%がハイテク分野で占められている。この動きの背後には、証監会が2024年9月に打ち出した「M&A六条」の政策効果が大きく影響している。新政策は、科創板や創業板などのテック系上場企業が産業上下流を取り込むM&Aを積極的に支援しており、財務要件よりも産業的価値を重視する規制方針への転換が鮮明になっている。
国科微の今回の再編は、こうした政策の追い風を受けた好機にあたるものであり、国が掲げる半導体産業の強靭化戦略とも整合する。中芯寧波のようなコア技術を持つ企業を取り込むことで、高性能フィルター分野における国産技術の地位を高めるとともに、業界全体の自立的発展を加速する構えだ。
RFフィルターの国産化加速へ
米中間のテクノロジー摩擦が続く中、中国はICのサプライチェーン強化に取り組んでいる。米国が19年に華為技術(ファーウェイ)を制裁リストに載せて以降、22年の「CHIPS法」や最先端半導体の輸出規制など、一連の措置が中国の半導体供給網を大きく揺るがせた。
これを受けて、中国の4大業界団体は24年12月、国内企業に対し国産チップの優先調達を呼びかけた。こうした中で発表された国科微による中芯寧波の買収は、高性能な射頻フィルターの国産化に向けた重要なステップと位置付けられる。
特に5G/6G通信でRFフィルターは中核部品とされ、国の通信産業の安全性と発展を左右する存在だ。現在、中国は世界市場の約3割を占めるが、BAWフィルターの分野ではシェアが5%未満にとどまり、海外企業への依存が続いている。
5Gの普及により、1台当たりのフィルター搭載数は4G時代の40個から70個超に増加し、市場は年率9.3%のペースで拡大している。24年にはすでに230億米ドル(約3兆3097億円)規模に達し、6G開発ではテラヘルツ帯域でのBAW応用が期待されている。
中芯寧波はSUB-6G全帯域のフィルター製造技術を保有し、高度なBAW技術で海外依存を打破。また、国内大手スマホメーカーと戦略提携を結び、同社フィルターの生産能力の50%を優先供給する長期契約も締結している。