中国大手VC、米AIスタートアップに投資加速 

狙いは中国系創業者

中国の大手ベンチャーキャピタル(VC)が、米国でAI(人工知能)スタートアップへの投資を加速している。主な投資対象は主に中国人や中国系米国人が創業したAIスタートアップだ。AIや半導体チップの国産力が経済安保の鍵を握る時代に、中国人創業者とその企業を中国に取り込み、世界市場で影響力を高める狙いがあるとみられる。

中国本土最大のベンチャーキャピタルであるセコイア・キャピタル・チャイナ(紅杉資本(中国))はこのほど、米カリフォルニアを拠点とするAIスタートアップ、UTA(Universal Travel Assistant)に投資した。UTAは、ユーザーが旅行計画を立てるのを支援するAIチャットボットを開発している。
セコイア・キャピタルはまた、昨年設立されたカリフォルニアを拠点とするAIスタートアップ、Opus Clipにも投資している。同社のAIビデオ・ツールは、長い動画を要約して短い動画に生成することができる。

そのほか多くの中国VCが直近1年で、米AIスタートアップなど関連企業に投資している。真格基金や源馬資本、今日資本などのほか、スタートアップ・インキュベーターY Combinatorの中国子会社だった奇績創壇など、中国の著名なVCも米国のAIスタートアップに投資している。 騰訊網によると、これらの企業やVCはいずれも取引を公表していないという。

■ベイエリアでイベント開催

中国VCが有望な投資先を探すのは、ベンチャーが集積するシリコンバレーなどサウンフランシスコ・ベイエリアが中心となっている。中国版インスタグラムと呼ばれているSNSアプリ「小紅書(RED)」への初期投資で知られる真格基金もこれまでに起業家向けのイベントをベイエリアで「アジア創業者の集い」を数回開催した。奇績創壇は現地で専門スタッフを雇い、各企業とコンタクトを取るなどして案件探しをしているという。

中国のVCが米国を拠点とするAI企業に投資しているのは、急成長する世界のAI市場に参入する方法のひとつとなるためだ。 中国のベンチャーキャピタルもこれまで中国のAI新興企業に投資してきたものの、これらの新興企業の潜在的な顧客は一般的に国内市場に限られていることが背景にあるとみられる。

■中国ゆかりの起業家がターゲット

主に米国在住の中国人や中国にゆかりのある起業家に投資しているのも特徴だ。セコイア・キャピタル・チャイナが投資したUTAの共同設立者である呉游(Wu You)氏は、米OpenAIの大規模言語モデル(LLM)をマイクロソフト(MS)の検索エンジンBingに統合するのに貢献したとされる人物で、今年9月にマイクロソフトを退社ている。

真格基金は、Opus Clipとロサンゼルスを拠点とするAI音声技術のHeyGen(ヘイジェン)に投資した。 Opus Clipの共同設立者でCEOの趙勇(Zhao Yong )氏は、カリフォルニア大学バークレー校でコンピューターサイエンスを学び、現在はロサンゼルス在住。 以前は中国の大手企業向けソフトウェア新興企業、再会を共同設立していた。 さらに真格基金は今年初め、シリコンバレーを拠点とし、「次世代データインフラ」とAIアクセラレーション技術開発のDatastratoに投資している。

動画投稿アプリ大手「TIKTOK(ティックトック)」を運営する北京字節跳動科技(バイトダンス)への初期の投資家で知られる源馬資本はこのほど、求職者向けのAIチャットボットを開発するシリコンバレーの新興企業Jobrightに投資。 中国の電子商取引(EC)大手、京東網の初期のベンチャー投資家である今日資本はこのほど、ウォール街のアナリスト向けの金融調査を行うために設計されたAIソフトウエアを開発するシリコンバレーの新興企業、Generative Alphaに投資している。

一方、米下院中国特別委員会が、先端半導体規制に絡み、セコイア・キャピタルなど中国関係のVCによる米国のテクノロジー企業への投資に関する調査を開始したとの報道もある。

Tags: , , , ,

関連記事