中国国産の手術ロボット、普及に課題
投資集めるも赤字拡大
中国で近年、最先端科学技術分野の投資先として人気を集めてきた手術用ロボットだが、外資ブランドとの差別化や製品品質の課題で医療現場での普及が進まず、国産手術ロボットのベンチャー各社が経営不振に直面している。
中国では近年、手術用ロボットは医療関係で人気の投資先となっている。中国の医療機器産業のデータベースである MDCLOUDの調査によると、国内の手術用ロボット分野の融資件数は2017年から21年の融資件数は合計88件で、年平均は約17.6件。このうち22年は融資件数が29件だった。 資金調達額をみると、22年に1億元(約19億5,000万円)以上を調達した手術用ロボット関連企業は、元化智能や術之道医療、術鋭科技、華科精準など11社に上っている。
ただ、22年の融資件数29件のうち、シリーズC、シリーズDの資金調達段階は3社にとどまり、多くの企業がまだ初期段階だ。
投資拡大の背景にあるのは、政策がある。工業情報化省など中国政府17部門は今年1月、「ロボット+」というロボットの社会実装のための行動実施計画を発表した。25年をめどに医療保健、検査、リハビリなどの医療ロボット製品を開発を推進する。 病院では手術ロボットを使用した精密で低侵襲な手術を普及させ、ロボットのための標準手術室を整備することなどを推奨した。
これに加えて上海市は21年4月に、手術ロボット製造の米Intuitive Surgical(インテュイティブ・サージカル社)の外科手術ロボット「ダヴィンチ」を医療保険の対象に組み入れた。手術項目は前立腺切除術や腎臓部分切除術、子宮全摘術、直腸がんの4種類に限定される。また同年8月には天智航の手術ロボット「天璣」が北京市の医療保険対象になっている。
■各社の業績は低迷
一方、国産手術ロボットを手掛ける各社の業績は芳しくない。腹腔鏡手術ロボットなどの開発を手掛ける上海微創機器人(集団)股フン(上海市)の22年決算によると、売上高は前年比904.8%増の216億3,000万元(約4,254億6,200万円)だったが、11億4,000万元の損失で、損失額は前年比95.5%拡大した。同社の腹腔鏡手術ロボット「図邁」と三次元電子腹腔鏡の販売が振るわなかったもようだ。
整形外科用ロボット「天璣」の開発を手掛ける北京天智航医療科技股フン(北京市)も、同様に販売は低迷気味だ。同社の整形外科ロボットの販売台数は、同社の手術ロボットに対する補助金対象になったことを受けて17年の16台から19年には41台に増加し、売上高は17年の5,542万2,200元から19年には2億1,400万元に増加した。だが補助対象から外れた20年以降、21年まで3年間の販売台数は年間30台程度に減少。売上も20年が1億1,200万元、21年が1億1,500万元にとどまり、22年は赤字額が1億1,100万元に拡大している。
医療機器業界の関係者は、時代財経の取材に対し、 「手術用ロボット業界の外部環境は多くの優遇政策が施されているが、商業化については製品や医療機関内部の問題が山積している」と指摘。ほとんどの国産ブランドが、海外ブランドと比べて価格や製品機能そのものの面で明確な差別化や優位性を持っていないほか、技術的に手術の一過程の活用にとどまり、費用対効果で普及が進まない原因になっていると分析した。
米コンサルティングのフロスト&サリバンによると、世界の手術用ロボット市場規模は16年の36億米ドルから21年には123億米ドルに拡大した。27年には407億米ドルに達すると予想している。 中国の手術用ロボットの市場規模は21年に6億米ドルにとどまっている。