アリババ系のチップ企業、出荷台数で寒武紀を逆転

中国IT大手、阿里巴巴集団(アリババ・グループ)傘下のチップ企業「平頭哥(ピントウガー)」が躍進している。

IDCの最新レポートによれば、2026年第1四半期(1〜3月)時点で同社のAI(人工知能)向けPPUチップ「真武(Zhenwu)」の累計出荷は60万枚を突破。中国AIチップ企業の中で第2位に浮上し、出荷規模で初めてAI半導体をリードする中科寒武紀科技(カンブリコン)を上回った。現在トップは華為技術の「昇騰」シリーズであり、平頭哥はそれに次ぐ有力プレーヤーとなっている。

半導体という「ハードテック」の最前線で、平頭哥は長らく神秘的で寡黙な存在とされてきた。設立が発表されたのは8年前、クラウドイベントで当時の最高技術責任者(CTO)が半導体会社の立ち上げを宣言したことが始まりだった。初期には製品を積極的に公開していたが、国際的な半導体競争の激化を受け、2022年以降は表舞台での動きが減少。国産チップ企業のように派手な新製品発表を繰り返すことも、海外大手のように巨額売上を誇示することもなく、市場の視界からは半ば姿を消していた。

しかし26年初頭、米メディアの報道をきっかけに状況は一変する。ブルームバーグは、アリババ傘下のチップ会社が独立IPO(新規株式公開)を準備中で、評価額は250億~620億ドル(約3兆8280億~9兆4936億円)に達する可能性があると報じた。これを受け、米株式市場の時間外取引でアリババ株は一時5%超上昇。平頭哥は再び脚光を浴びることとなった。

同社の製品群はAIチップにとどまらない。CPU(中央演算処理装置)、ストレージ、IoT向けを含む“全スタック”の半導体体系を構築している。AI分野では「含光800」や最新の「真武810E」を展開。サーバーCPU「倚天710」は5ナノメートル(nm)プロセスを採用し、クラウド用途での高効率を強みとする。SSD(ソリッドステートドライブ)コントローラ「鎮岳510」は企業向けストレージ市場に参入し、IoT分野では「羽陣」シリーズが流通・小売分野に浸透している。

特に注目されるのが「真武810E」だ。自社開発の並列計算アーキテクチャとチップ間相互接続技術を採用し、96GBのHBM2eメモリを搭載。性能はNVIDIAのH20に匹敵するとされる。アリババの大規模言語モデル「通義千問(Qwen)」の学習・推論基盤として大規模導入が進み、外部顧客は400社超に拡大している。

一方で、CUDAを軸とするNVIDIA(エヌビディア)のソフトウェア・エコシステムとの差は依然として大きく、開発者基盤の拡充が課題だ。それでも、政府・エネルギー・交通などサプライチェーンの安全性を重視する分野では「使える、扱いやすい、そして安価」な国産代替として評価が高まっている。

組織面では、アリババの「1+6+N」再編を経て、平頭哥はアリクラウド傘下に位置づけられた。その後、RISC-V系IPコア「玄鉄」チームなどはアリババグループの最先端研究機関「アリババDAMOアカデミー(達摩院)」に再編されるなど、内部構造も変化している。現在はクラウド向け高性能サーバーチップを主軸に、AI、CPU、SSDコントローラ、IoTの4分野・6製品体制を確立した。

外販面でも存在感を強める。国有通信大手の中国聯通(チャイナ・ユニコム)の国家級算力インフラ案件では過半の演算能力を担い、自動車分野でも新興EVメーカーから大量受注を獲得。IoTチップは中国の外食大手サプライチェーンで採用され、数千万箱規模の物流追跡に活用されている。

かつて「アリババ内部のコスト削減ツール」と見られた平頭哥は、いまや国産半導体の第一陣に立つ存在へと変貌した。国際大手との競争、エコシステム整備、IPO後の収益圧力と課題は多いが、クラウドとAI戦略の中核としての重要性は高まる一方だ。

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