トランプ次期米政権、AIや半導体など対中制裁はより厳しく
中国では内製化が加速へ
ドナルド・トランプ氏が米大統領選で返り咲きした。トランプ氏は国内産業を保護するため、海外からの輸入品に高い関税を課す意向を表明しているほか、中国のAI(人工知能)や半導体など先端技術分野への投資や輸出制限をさらに強化する意向とみられている。市場では、トランプ政権下では中国半導体の内製化が加速するとの見方が多く、7日の中国の半導体関連株は軒並み上昇した。
トランプ氏は、大統領としての最初の任期中に一連の対中制裁を実施した。来年1月に就任する第47代大統領としての新任期でも、国内産業の保護を名目にさらに対中制裁を強化するとみられている。
トランプ氏は先頃の選挙期間中のインタビューで、「我々は何十億米ドルも投資し、金持ち企業に金を借りさせ、ここ(国内)にチップ会社を作らせた。台湾が米国の半導体チップ・ビジネスを奪っている」と非難し、「台湾は保護費を米国に支払う必要がある」と示唆した。
バイデン政権が2022年8月9日から施行した「CHIPSおよび科学法(CHIPS法)」では、半導体受託生産(ファウンドリー)世界大手の台湾積体電路製造(TSMC、台積電)や韓国サムスン電子の米国工場建設に多額の補助金を支給している。これまでの補助金総額は300億米ドル(4兆6290億円)超となっている。同法は補助金と税制優遇措置を通じて米国内に工場設立を奨励し、国内の半導体サプライチェーンを強靭化し、経済安全保障を担保することが狙いだ。
トランプ氏はインタビューで 「CHIPS法は悪い計画だ」と発言し、共和党のジョンソン米下院議長も同法の改善と最適化の必要性を表明している。
一方、副大統領候補のJDバンス氏は、台湾の半導体産業が米国の国益にとって不可欠との見方を示しており、トランプ氏との見解との相違がある。トランプ政権下でCHIPS法の扱いがどうなるかはまだ不明だ。
関税措置なら米国内産業にも打撃
トランプ氏はまた、「ホワイトハウスに戻ったら中国と台湾のチップに関税を課す」とも述べている。
ただ、NVIDIA(エヌビディア)など米国の大手半導体チップメーカーは、TSMCのほか、韓国サムスン電子、SKハイニックス、東京エレクトロンなど海外製ウエハーや材料、装置などに大きく依存している。
業界関係者の中には、この関税政策が実施されれば、技術サプライチェーン全体のコストが上昇し、ほとんどすべての米国電子製品の価格が上昇し、最終的には消費者の負担を増やし、貿易不均衡を悪化させる可能性もあるとみている。関税などによりインフレが加速すれば、次期政権への逆風ともなりかねず、トランプ氏が就任後にどう判断するかがは不透明だ。
半導体の内製化が加速
7日付第一財経日報によると、中国市場調査会社iiMedia Research(艾媒諮詢)の張毅最高経営責任者(CEO)兼チーフコンサルタントは、「バイデン氏に比べ、トランプ氏はビジネスマン感覚が強く、市場性をより重視するだろう」 と指摘し、「中国半導体企業向けにさらに制裁を拡大することは、逆に中国の半導体の内製化のプロセスを加速させる可能性がある。内製化が進めば、この点での米国の制裁は無意味になる。加えて、シリコンバレーのテック系企業を自らの支持に引き込むため、トランプ氏は中国企業との取引も一部検討し、中国企業が外国の先端技術にアクセスできるようにするだろう」と予測している。
トランプ政権下では、AIチップで果たす役割が大きくなっている高帯域幅メモリーチップ(HBM)で中国への供給をさらに制限するとみる見方もある。 現在、最先端のHBMを供給できるのは、サムスン電子、SKハイニックス、米マイクロン・テクノロジーのみだ。
業界関係者は「国産GPU(画像処理半導体)の場合、中国は短期的には比較的大量の設備と材料をストックしており、一部を除いて他のGPU企業がTSMCの先端プロセスファウンドリーを使用することを禁止していないため、短期的にはGPU生産に影響はない」と指摘する。中長期的には、マルチフォトリソグラフィやエッチングなど、国産の同等プロセスがすでに利用可能であり、歩留まりも向上しているため、国産GPUはスムーズに生産拡大を行うことができると分析している。
半導体株が上昇
トランプ氏の勝利が判明した翌7日の中国の株式市場は、半導体株が活況となった。対中制裁が強化されれば、半導体産業の内製化が加速すると市場から判断されたためとみられる。
半導体製造に欠かせない主要部材であるフォトマスクの汎用品を製造する深セン市龍図光罩股フンが12.78%上昇、半導体チップの蘇州盛科通信が8.68%上昇したほか、半導体検査測定設備メーカーの深セン中科飛測科技、マスクプレートメーカーの深セン清溢光電股フン、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)やパワー半導体チップを手掛ける嘉興斯達半導体もそれぞれ上昇した。
徳邦証券の調査報告書によると、トランプ氏の勝利は、中国の半導体業界の自律的な成長を刺激し、国産化率の低かった分野とAIチップ産業チェーンの発展につながると分析している。証券会社の中国銀河も、国内の半導体装置と材料分野は、国内代替の傾向と長期的な投資機会をもたらし続けると予想している。