燧原科技、科創板に上場 中国国産GPU「四小龍」がそろって資本市場へ

中国でAI(人工知能)のトレーニングチップを手掛ける燧原科技(Enflame、上海市)は11日、上海証券取引所の科創板(スターマーケット)に上場した。これにより、「中国国産GPU四小龍」と呼ばれる企業のうち、最後の1社が資本市場への上場を果たした。
燧原科技の公募価格は1株142.18元、発行株式数は4303万5173株で、調達額は総額61億1900万元に上った。発行時の時価総額は約611億8700万元(約1兆4011億8230万円)。1株当たりの公募価格でみると、2026年に科創板へ上場した新規銘柄としては、頻準激光の186.88元、宇樹科技の150.80元に次ぐ3番目の高水準となった。
上場初日の寄り付きは188%超の大幅高となった。公募株500株を取得した投資家の場合、含み益は13万3900元を超えた計算となり、ここ1年ほど続いている中国国産GPU関連新規上場銘柄の急騰基調を引き継いだ格好だ。
目論見書および会社開示によると、今回の調達資金は主に第5世代、第6世代AIチップの製品開発・量産化に投入される。また、「先進人工知能ソフト・ハードウエア協調イノベーションプロジェクト」にも充当し、1万チップを超える大規模クラスターの中核技術、人工知能ソフトウエアスタック、中核IPの国産化、国産プロセスを用いたクラウド向けAIチップの開発などを進める。
DSA方式でクラウド分野に注力
燧原科技は2018年3月に設立され、クラウドコンピューティング向けAIチップに注力している。同社は、汎用GPU(GPGPU)方式ではなく、特定領域向けアーキテクチャであるDSA(Domain-Specific Architecture)方式を深掘りしている。命令セット、演算子、ドライバーなどの基盤技術を全て自社開発し、CUDAエコシステムとの互換性をあえて追求しない独自路線を採用している。
同社は「1世代を先行研究し、1世代を開発し、1世代を量産する」という並行型の研究開発体制を構築している。これまでに4世代のアーキテクチャと5種類のクラウド向けAIチップを自社開発しており、第5世代および第6世代製品についても、すでに開発または先行研究の段階に入っている。
商業化においては、大手インターネット企業を突破口とし、中国IT大手の騰訊(テンセント)との戦略的協業関係を7年にわたって構築してきた。テンセントは同社にとって最初期の戦略投資家の一社であり、累計投資額は20億元を超える。
趙立東董事長(会長)によると、第2世代製品はテンセント向けに累計約3万個を出荷した。現在量産中の第3世代製品は累計出荷数が16万個に達しており、間もなく量産に入る第4世代製品では、出荷規模がさらに拡大する見通しだ。テンセントは第2世代以降、各世代の製品を継続的に買い替えているという。
燧原科技はまた、中国政府が進める「東数西算」構想の複数の中核拠点におけるインテリジェントコンピューティングセンターの建設にも深く関与している。甘粛省慶陽市では、中国初となる国産チップを使った1万チップ規模の推論クラスターを構築した。さらに、今年の「世界人工知能大会」(北京市開催)では、数十個のチップを全相互接続トポロジーによって1台のラックに統合した「スーパーノード」製品を披露した。
2026年は高成長を見込む
業績面では、燧原科技の売上高は2023年の3億100万元から、2024年には7億2200万元、2025年には9億9000万元へと拡大した。3年間の年平均成長率は81.32%に達する。
2026年上期(1〜6月)の売上高は11億2000万元となり、2025年通期の実績をすでに上回った。同社は2026年1~9月期の売上高について、23億元から30億元になると予想している。前年同期比の増加率は325.78%から455.36%に達する計算だ。
背景には、AIエージェントの利用拡大がある。高性能な推論モデルでは、パラメーター数が数百億から数千億規模に達しており、高性能推論チップは供給不足の状態にある。こうした需要拡大が、同社の売上高の急成長を支えている。
国産GPU「四小龍」を比較
燧原科技の上場により、摩爾線程(Moore Threads)、沐曦股フン(MetaX)、壁仞科技(BIRENTECH)、燧原科技の4社、いわゆる「中国国産GPU四小龍」が全て資本市場に進出した。ただし、上場経路、市場の注目度、業績にはすでに明確な差が生じている。
資本市場への進出では、摩爾線程が「中国国産GPU第1号上場企業」となった。同社は2025年12月5日、1株114.28元で科創板に上場し、初値は460%超上昇。時価総額は3000億元を突破した。
沐曦股フンはその後を追い、2025年12月17日に1株104.66元で科創板に上場した。初日の終値は829.9元となり、公募価格からの上昇率は693%に達した。時価総額は一時3320億元に膨らみ、当時の中国A株における新規上場銘柄の上昇記録を塗り替えた。
壁仞科技は香港市場を選択した。2026年1月2日に1株19.60香港ドルで上場し、初値は82.14%上昇。取引時間中の上昇率は一時118%を超え、「香港株GPU第1号上場企業」となった。
燧原科技は2026年に上場した4社の中で最後となった。1月22日に科創板へのIPO申請が受理され、6月15日に審査を通過、9月11日に上場した。発行時の時価総額は約612億元で、すでに上場後に株価が急騰した先行3社を大きく下回る水準だった。
売上高では同じ規模ながら、成長率に差
2026年上期の売上高をみると、4社はいずれも同じ程度の規模にあるものの、差が表れ始めている。摩爾線程が17億3600万元で首位となり、沐曦股フンが13億2400万元、壁仞科技が12億3600万元、燧原科技が11億2000万元で続いた。
このうち壁仞科技は売上高が前年同期比で約20倍となり、伸び率で最も高い。沐曦股フンはすでに帳簿上の黒字を達成している。一方、燧原科技は2023年から2025年までの売上高の年平均成長率が81.32%に達し、2026年1~9月期についても最大455.36%の増収を見込む。後発企業ならではの高い成長余力が浮かび上がっている。
技術路線も異なる
4社は技術面でもそれぞれ異なる重点分野を持つ。摩爾線程は製品ラインアップが最も幅広く、AI学習・推論、汎用コンピューティング、グラフィックスレンダリングをカバーしている。現在は「プラットフォーム」企業への転換も進めている。沐曦股フンは高性能汎用GPUとAI推論チップを主力とし、中国国内でも数少ない、1万チップ規模のAI学習クラスター向けソリューションを提供できるメーカーの一つだ。壁仞科技は「壁砺」シリーズのGPUを展開し、ピーク演算性能で国際的にも高い水準にある。
これに対して燧原科技は、CUDAと互換性を持たないDSA方式を堅持している。チップ開発と大規模言語モデルの学習を同時並行で進める「チップ・モデル協調」によって、独自の競争優位性を構築している。
アナリストは、DeepSeekなどオープンソースの大規模モデルが普及するなか、推論向けコンピューティング需要が急速に拡大していると指摘する。燧原科技が採用するDSA方式は、汎用GPU方式と比べて、理論上は電力効率とコスト面で優位性を持つ可能性がある。
一方で、同社独自のエコシステムによる参入障壁が、顧客による継続的な買い替えやリピート発注、さらには粗利益率の改善へと結び付くかどうかが、上場後の市場の焦点となりそうだ。




