AIデータセンター用の電源管理技術に注目、半導体大手3社が相次ぎ買収

世界で需要が高まるAI(人工知能)データセンター用電源技術の獲得競争が進んでいる。ドイツの半導体大手、Infineon Technologies AG(インフィニオン・テクノロジーズ)、米Navitas Semiconductor(ナビタス・セミコンダクター)、米Analog Devices(ADI、アナログ・デバイセズ)の3社が、データセンターのエネルギーコストなど低減する電源管理コントローラー技術を獲得しようとしているのだ。

ドイツの半導体大手、Infineon Technologies AG(インフィニオン・テクノロジーズ)は先月24日、インド・ベンガルールに本社を置くC2i Semiconductorsを買収すると発表した。

インフィニオンは、C2iのソフトウェア定義型マルチフェーズコントローラー、インテリジェント・パワーステージ、システムレベルの電源アーキテクチャ、そしてVPD(垂直電源供給)やSIVR(基板内蔵型電圧レギュレーター)に関する技術力を獲得するのが狙いだ。

窒化ガリウム(GaN)を使った次世代の電力半導体(IC)を開発・販売する米Navitas Semiconductor(ナビタス・セミコンダクター)も買収契約を締結し、AIデータセンター向けの電力管理・半導体技術を開発する米国のスタートアップ、Clarosを最大約2億3280万ドル(約372億4800万円)で買収する方針を示した。Navitasが示したキーワードもVPDとIVR(誘導電圧調整器)であり、Clarosについて、自社の「Grid-to-xPU」電源チェーンにおける最後の一歩を補完する企業と位置付けている。

さらに3カ月前にさかのぼると、5月19日には高性能アナログ、ミックスド・シグナル、デジタル信号処理(DSP)ICなどを手掛ける米Analog Devices(アナログ・デバイセズ)が先行して米のEmpower Semiconductorを現金15億ドルで買収すると発表し、同社のIVRとSilicon Capacitor(シリコンキャパシター)技術を取得した。買収は7月7日に正式に完了している。

過去2年間、AIデータセンターの電源をめぐる最も注目されたテーマは、PSU、SiC、GaN、800Vなどだった。現在、競争は電源チェーンに沿ってプロセッサー方向へとさらに進んでいる。マルチフェーズコントローラー、DrMOS、IVR、垂直電源供給、シリコンキャパシター、先進パッケージングが突然注目を集め、電源チップメーカーは研究開発を待つことすらせず、買収によって直接その能力を獲得しようとしている。

設立2年のC2iにインフィニオンが注目

C2iは2024年に設立された。創業チームの中心は米Texas Instruments(テキサス・インスツルメンツ)の電源事業出身者だ。C2iは今年2月、Peak XV Partnersが主導し、Yali DeeptechとTDK Venturesが参加する1500万ドルのシリーズA資金調達を完了した。当時、同社のエンジニアは約65人で、米国と台湾に顧客サポートチームを設立していた。その後、シリーズAの調達額は1670万ドルまで拡大した。それ以前にもC2iは約400万ドルの初期資金を調達していた。

時系列で見ると、この会社は従来の電源チップスタートアップが経験する長い量産立ち上げ期間すら、まだ経験していない。今年5月28日になってようやく、C2iはAIサーバー向けSmart Power Stageの第1号製品がテープアウトを完了したと発表した。このチップは12Vを、0.8V程度のプロセッサーコア電圧まで降圧する役割を担う。

対応するマルチフェーズコントローラーについては、当時まだテープアウトしておらず、今年10月の完成を予定し、27年初めから顧客へのサンプル提供を開始する計画だった。

製品がまだ市場に出る前に、インフィニオンは動いた。インフィニオンは明らかに、すでに大きな売上高を生み出している成熟した製品ラインを買うのではない。むしろ、チーム、デジタル制御IP、そして今後数年間にAIのコア電源供給で採用される可能性のある技術アーキテクチャを先行して買収したとみられる。

最後の電源段階が難しい

AIデータセンターの電源チェーンは長い。将来の800V DCアーキテクチャでは、電圧は800Vから始まり、50V、48V、12V、あるいは6Vを経て、最終的にはGPU(画像処理半導体)、CPU(中央演算処理装置)、各種AIアクセラレーターのコアに必要な1V前後、さらには1V未満まで降圧する必要がある。

この最後の数ボルトが、電源管理をますます難しくしている。プロセッサーの消費電力が増大する一方で、コア電圧は依然として低いままだからだ。

単純にP=UIで計算すると、1kWの電力、0.8Vのコア電圧では、電流はすでに1250Aに達する。将来、プロセッサーの消費電力がさらに数kWへと増加すれば、コア電源は当然、数千Aの領域に入る。

TDK VenturesはC2iへの投資時、将来のAIプロセッサーのピーク電流が約6000Aに達し、さらに1万A級のアーキテクチャへ進む可能性があるとの見通しまで示している。

電流がこの規模になると、問題はPower Stageが数十Aに耐えられるかどうかだけではなくなる。数十相、さらにはそれ以上のPower Stageでどのように電流を均等化するのか、いつPhaseを追加・停止するのか、GPUの負荷が突然変化した際にどのように迅速に電流を立ち上げるのか、コア電圧を安定させながら、PDNインピーダンス、スイッチング損失、熱、EMI、システム安定性にも対応する必要がある。そのため、マルチフェーズ制御の重要性が急速に高まっている。

同時に、電源経路そのものも損失の原因になり始めている。従来のマルチフェーズVRMは通常、GPUの周囲に配置され、PCBの銅層を通じて低電圧・大電流を横方向にプロセッサーへ供給する。xPUが数千Aの電流と、ほぼ瞬時の応答速度を必要とするようになると、従来の横方向電源供給はPCB上の経路や寄生パラメーターによる制約を受け始める。

C2iのソフトウェア定義型マルチフェーズ電源技術

C2iが現在公開している中核技術は、大きく2つに分かれる。1つ目は「Manas Controller」と呼ばれるソフトウェア定義型マルチフェーズコントローラー・アーキテクチャだ。

C2iと投資元のTDK Venturesによると、この技術は異なるプロセッサーやPDNの変化に対して制御アルゴリズムがより高い適応性を持つことを目指しており、モジュール方式によってPhase数を拡張できる。

2つ目は「Sarayu Power Stage」で、実際のDC/DC電力変換を担う。制御を担う部分と電力変換を担う部分を組み合わせることで、デジタル電力変換システムを構築できる。これもインフィニオンがC2iに注目した重要な理由の一つだ。

従来のマルチフェーズ制御技術はすでに数年にわたって発展してきた。しかしAIプロセッサーでは、負荷変動の速度、電力密度、電流規模がいずれも上昇している。そのため電源は、プロセッサーの状態、PDN、温度、システム消費電力とより緊密に連携して動作する必要があり、マルチフェーズ制御技術にも新たな課題が生じている。

C2iは、より多くの電源動作を制御アルゴリズムに委ねようとしている。Phaseをどのように制御するか、負荷にどう応答するか、効率と動的性能をどうバランスさせるか、異なるxPUや異なるPDNにどう適応するか、といった点だ。

そのため同社は、自らの技術路線を「ソフトウェア定義型電圧レギュレーター」と称している。C2iは、VR変換効率が96%を超え、従来方式の約94%を上回るといったデータを示したことがある。また、1GWのAIデータセンターを想定した場合、年間約1200万ドルのエネルギーコスト削減につながる可能性があり、プロセッサー温度を最大約4℃低下させられるとしている。

NavitasもIVR企業を買収

Navitasは8月24日、Clarosを最大約2億3280万ドルで買収すると発表した。ClarosはRed Cell Partnersによってインキュベーションされた企業で、主にAIデータセンター電源分野をターゲットとしている。

Clarosは今年3月、プロジェクト開始から約13カ月で3種類のIVR設計を完成させ、そのうち1つがすでにラボ試験に入っていると明らかにした。4つ目のIVRはカスタム設計で、開発を進めていた。

Clarosと韓国サムスン電子は今年6月、製造協力を発表し、サムスンのFinFETプロセスを利用してIVRの量産を進める方針を示した。サムスンはその後、このIVRを米国テキサス州オースティン工場で14ナノメートル(nm)プロセスにより製造すると明らかにした。

全体として、VRはメインボードからパッケージへと移行しつつある。現在は従来型のモジュールが主流だが、今後は基板パッケージが短期的な発展方向となり、垂直電源供給などが含まれる。さらに長期的には、組み込み型IVRへと向かう。すなわち、電力変換素子を基板、インターポーザー、あるいはその他の共封止構造の内部に組み込む方向である。これら2種類のデバイスが得意とするのは、基本的にAI電源チェーンの比較的前段に位置する部分であり、高電圧AC/DC、800V HVDC、各種の高電圧・高電力変換などだ。

しかし、電源チェーンに沿ってGPUへ近づいていくと、デバイスも変化する。0.xV、数千AのxPU端では、問題はマルチフェーズ制御、電流密度、PDN、磁性部品、コンデンサー、パッケージングへと変わり、最終的には電力をxPUの真下へ直接届ける方法まで考える必要がある。

そのため、今回NavitasがClarosを位置付けた表現は興味深い。同社はVPDとIVRを、「電力網からxPUコアへ至る同社の最後の一歩」と表現した。

買収後、Navitasは2030年のSAM(獲得可能市場規模)が80億ドルを超えると予想している。そのうちVPDとIVRによって少なくとも35億ドルの市場機会が追加され、2028~2029年ごろから新たな成長源になると見込んでいる。

GaNを起点とした企業が、シリコンベースの電源事業へ進出し始めたこと自体、一つの潮流を示している。

ADIはすでにEmpowerを15億ドルで買収

ADIは今年5月、Empower Semiconductorに15億ドルを投じている。Empowerは2014年設立のシリコンバレーの電源チップ企業で、創業チームはサーバー向け高性能電源分野のベテランで構成されている。

Empowerの技術の重点もIVRにある。注目すべきは、EmpowerとClarosの双方がFinFET電源技術を持っている点だ。本来、高電圧・大電流への対応には適さないFinFETを、「電圧スタッキング+制御アーキテクチャ+パッケージング」によって利用可能なパワーユニットへと変える技術だ。

他のアナログ半導体メーカーが採用するBCD技術と比べ、FinFETは高密度、高速性、デジタル統合能力を備えており、AIチップの「最後の1インチ」の電源供給に適している。

さらにEmpowerには、シリコンキャパシターというもう一つの技術がある。VRがGPUの下、さらにパッケージ内部へと移動するにつれて、Power Stageを移動させるだけでは十分ではない。デカップリングや過渡時のエネルギー蓄積を担うコンデンサーも、ますます薄く、寄生要素を小さくし、可能な限りコンピューティングDieに近づける必要がある。

そのためADIはEmpower買収時、IVRとシリコンキャパシターを2つの中核技術として並列に挙げ、この買収によってクラウドコンピューティングおよびAIチップメーカー向けのGrid-to-Core能力をさらに補完すると明確に説明した。

3件の買収を並べてみると、方向性は明確だ。

これまでAIサーバー電源の競争は、主に電力をいかに効率的にラックへ送り込むかをめぐって展開されてきた。PSUの出力はますます大きくなり、48Vへの移行が進み、800V HVDCが登場し、SiCとGaNもより多くの変換段階に入り始めた。

現在、新たな争奪戦が起きているのは電源チェーンの反対側だ。GPUコア電圧が1V未満となり、電流が数千Aに達すると、最後のVR段階がプロセッサーに供給される実効電力を大きく左右するようになる。その結果、VRはGPU周辺からGPUの下へ、さらにPCBからパッケージ内部へと移動し始めている。

同時に、デジタルマルチフェーズコントローラーとアルゴリズムもシステムに組み込まれつつある。パワー半導体企業にとって、従来型のパワーデバイスをしっかり作ることは依然として重要だ。しかし、それだけではもはや十分ではない。

ADIにはEmpowerのIVRとシリコンキャパシターが必要だった。インフィニオンはすでに完全なパワーデバイスとAI電源製品ラインを持っているにもかかわらず、C2iのソフトウェア定義型マルチフェーズ制御を買収することを選んだ。NavitasはGaNとSiCを手中にしているが、それでもClarosを通じてIVR、ミックスドシグナル、先進パッケージングへ進出しようとしている。

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