内モンゴルの大草原、アジア最大のAIクラスターに成長へ

米国の複数の州で、AI(人工知能)データセンターへの過剰投資を背景に電力不足への懸念が強まる一方、中国・内モンゴル自治区ウランチャブ市は風力も太陽光も豊富で、それらの再生可能エネルギーを「Token(トークン)」へと変える意欲が強く、アジア最大のAIデータセンター拠点へと成長している。

米金融大手のGoldman Sachs(ゴールドマン・サックス)はこのほど発表した特別レポートで、ウランチャブが「アジア太平洋地域で最大かつ最も急速に成長するAI演算クラスターの一つへと台頭している」と指摘した。

2026年6月時点で、ウランチャブではデータセンター事業者やインターネット企業などから、稼働中および計画中を合わせて12.5ギガワット(GW)のデータセンター容量が確約されている。2025年7月時点の3.3GWから、1年足らずで約4倍に増えた計算だ。25年時点の稼働容量約1.2GWと比べれば、10倍以上の規模に相当する。

遠景科技集団(Envision)のAIDC部門の担当者は、ウランチャブについて「突然注目を浴びたのではない。AI時代になって、ようやく『選ばれた土地』として再発見された」と説明する。

業界では「米国は電力が不足している一方でAIチップは不足しておらず、中国はAIチップが不足している一方で電力は不足していない」といった見方がある。しかし同担当者によれば、中国に電力そのものが不足しているわけではない。問題は、それをAIデータセンターまで届けるための電力インフラだ。そしてウランチャブは、そのインフラ整備の起点の一つとなっている。

なぜウランチャブなのか

ウランチャブの台頭を支えるのは、複数の天然・政策上の優位性だ。第一は、立地と低遅延性である。北京市から直線距離で約240キロメートル(km)に位置し、光ファイバーによる往復遅延はわずか4.2ミリ秒。京津冀(北京市・天津市・河北省)の計算需要に対応する「低遅延の後背地」として機能しながら、大都市圏で問題となる高い電力料金やエネルギー消費規制を回避できる。

第二は、豊富な再生可能エネルギーと政策支援だ。ウランチャブでは、全国の約10分の1に相当する面積が有効な風力発電適地とされ、年間日照時間は3200時間を超える。新エネルギー発電設備容量は20GWを突破し、市域全体に占めるグリーン電力の比率は約67%に達する。データセンター向けの最終電力価格は1kWh当たり0.33~0.36元で、京津冀地域と比べて約50%低い。

さらに重要なのが、西モンゴル電力網による「グリーン電力直接接続」だ。企業が自ら建設した風力発電所から専用送電線を通じてデータセンターへ直接電力を供給でき、公共電力網を経由する必要がない。

中国国家発展改革委員会は、新設するインテリジェントコンピューティングセンターについて、グリーン電力の利用比率を80%超とする方針を示している。ウランチャブでは、新規プロジェクトの実際のグリーン電力消費比率がすでに86%を安定的に超えているという。

第三は、市場主導型の産業エコシステムだ。DeepSeek(ディープシーク)やKimi(キミ)などの中国新興AIモデル企業が進出し、騰訊(テンセント)や字節跳動(バイトダンス)といった大手企業も拠点を拡大している。地方政府も「草原クラウドバレー」から「インテリジェントコンピューティング都市」、そして「Tokenの都」へと段階的に発展させる構想を進めている。

さらに見逃せないのが低温という天然の冷却メリットだ。年間平均気温は4.3℃で、年間約10カ月にわたり自然冷源を利用できる。液冷設備以外の基本的な冷却コストを大幅に抑えられる。

AI演算需要が「投資ブーム」を裏付ける

こうした投資熱が単なる計画上の数字ではないことは、実際の需要データからも確認できる。25年、ウランチャブのデータセンター利用容量は前年比70%超増加し、約800メガワット(MW)に達した。26年6月時点の稼働中の計算能力は165EFLOPSに達し、前年から2倍以上に増加。全国のデータセンター利用容量の約5%、インテリジェント・コンピューティング能力の約7%を占める。

電力消費量も急増している。26年上期(1~6月)のデータセンター電力消費量は前年同期比90%増の3.3TWhとなり、市全体の電力消費量に占める割合は7%に上昇した。前年同期は4.3%だった。AIデータセンターが、ウランチャブの電力需要そのものを押し上げる存在になりつつある。

「グリーン電力直接供給」が新たなモデルに

ウランチャブのAIデータセンター建設を支える主要プレーヤーの一つが、従来型のインターネットデータセンター(IDC)事業者だ。代表例が、AIブームによって注目度が高まっているGDS(万国数据)やVNET(世紀互聯)である。従来型IDCのビジネスモデルは、土地を取得し、データセンターを建設してラックを貸し出すというもの。電力は国家電網から購入し、主な収益源はラックの賃料となる。

GDSは主に阿里巴巴(アリババ)などの大口法人顧客を取り込み、クラウド事業者向けサービスに強い「大家型」のビジネスモデルを展開している。一方、VNETは個人・法人双方を対象としており、Microsoft Azure中国事業やIBM、陌陌(Momo)、触控科技など幅広い顧客を抱えてきた。近年ではByteDanceが法人向け事業の成長を牽引する主要顧客となっている。

これに対して、遠景はデータセンター業界への新規参入組だ。騰訊などの大手企業がすでに同社の顧客となっている。26年8月、遠景がウランチャブで建設した「星河基地」が正式稼働した。ゴビ砂漠に連なる草原に、延床面積12万平方メートルの巨大データセンターが姿を現した。

星河基地は2GWの容量と100万GPU規模の並列処理能力を計画しており、「グリーン電力直接供給+超大規模相互接続」という電力と計算能力の協調モデルを前面に打ち出している。

「電力×計算能力」の一体化へ

従来のIDCとの最大の違いは、高比率のグリーン電力を直接供給できることだ。再生可能エネルギーを出発点としてきた遠景は、現在ではエネルギー側からAIデータセンターへと事業領域を逆統合し始めている。土地取得、データセンター建設、グリーン電力の直接供給までを一体化。つまり、遠景が提供するのは単なる「サーバールーム」ではなく、電力と計算能力を一体で設計するフルスタック型ソリューションだ。

従来型IDCが「建物を建て、電力網から電気を買う」モデルだったのに対し、AIの学習・推論処理は膨大な電力を消費するうえ、負荷変動も非常に大きい。

GPU(画像処理半導体)クラスターが一斉に稼働する際に発生する瞬間的な負荷変動は、従来型の電力網やデータセンターのUPS(無停電電源装置)だけでは対応が難しい。

チップコストを除けば、電力料金はAIDCの運営コストの60~80%を占めるとされる。さらに新設のインテリジェント・コンピューティングセンターには80%以上のグリーン電力利用が求められる。こうした環境では、「電力があるか」「どれだけグリーンなのか」「安定して供給できるか」が、AIデータセンターの競争力を左右する重要な要素になる。

そこで遠景は、自ら電力供給側に乗り出した。自前の風力発電所、グリーン電力直接接続、蓄電池による需給調整、そして「電源・系統・負荷・蓄電(源網荷儲)」の一体運用。これは遠景が十数年にわたり培ってきた能力であり、それを現在、AIデータセンターへと移植している。

中国に電力はある、問題はインフラ

米中のAIインフラを巡っては、「中国はAIチップが不足しているが電力は不足していない。米国はAIチップが不足していないが電力が不足している」という対比がしばしば語られる。

しかし業界関係者は、問題は単純な電力不足ではなく、電力を計算能力に変換するためのインフラ不足だと指摘する。データセンターは特定地域に集中する傾向がある。ウランチャブや河北省などに設備が集中すれば、地域の電力網、変電所、送電線の整備速度がサーバーラックの増加に追いつかなくなる可能性がある。「中国の資源動員能力を考えれば、米国ほど深刻な問題にはならない。しかし、計算能力が急速に拡大するなかで、電力と計算能力の協調にはなお改善の余地がある」と語る。

蓄電池が「電力のスポンジ」に

この問題を解決する鍵として注目されているのが蓄電システムだ。業界関係者は蓄電池を「スポンジ」に例える。電力が余っているときに吸収し、不足するときに放出することで、GPUに供給される電力を平準化し、安定性を高める。

GPUクラスターが一斉に計算を開始すると、瞬間的な電力需要が急増する。蓄電池はこうした負荷変動を吸収し、電力網への衝撃を緩和する「双方向のバッファー」として機能する。従来型データセンターではUPSやディーゼル発電機への依存度が高い。一方、自前の電力供給システムを構築すれば、電力供給の予測可能性を高め、内部の電力アーキテクチャを最適化するとともに、余剰設備を減らせる可能性がある。

遠景ではすでに一部のAI計算センターで、ディーゼル発電機の代替として需要家側蓄電システムの導入を開始している。

もっとも、蓄電システムの調整能力をさらに高めるには、ソリッドステート変圧器などのパワーエレクトロニクス機器も必要になる。こうした設備は現時点ではまだ大規模普及には至っていない。

最終的に何GWを実際に供給できるのか

市場が最も注目しているのは、ウランチャブが最終的にどれだけのAI計算能力を実際に稼働させられるのかという点だ。

26年6月時点で、データセンター事業者やインターネット・AI企業から寄せられた稼働中・計画中の容量確約は合計12.5GWに達している。Goldman Sachsによれば、この確約容量はマレーシア・ジョホール州の約3倍に相当する。同社は、中国のデータセンター稼働容量が2025年の28GWから2030年には53GWへ増加し、ほぼ倍増すると予測している。

比較すると、業界関係者がTencent Financeに提供したデータでは、米国では2026年に新設予定のデータセンター容量が約13.6GW。うち第1四半期に2.2GWが実際に稼働し、第2~第4四半期にはリスク調整後で11.5GWの追加容量が見込まれている。27年の米国の当初計画は36.3GWに達するが、実現率を50~60%と仮定すると、実際の追加容量は約18~22GWになるという。

もっとも、ウランチャブの実際の供給開始ペースは、計画上の数字ほど速くない可能性がある。ウランチャブのデータセンターが本格的に大規模な計算能力を放出するのは2028年以降になる可能性が高い。電力、計算能力、関連インフラの整備にはなお時間が必要だからだ。

AIインフラ競争の次の焦点

足元では、米中のAIインフラ投資のペースには依然として差がある。米国のテクノロジー大手による2027年の設備投資額は約1兆元規模に達する可能性がある一方、中国ではGPUなど重要な計算資源の制約が投資拡大の足かせとなり、成長ペースは相対的に緩やかだ。

しかし、中国国内のAIチップ・計算基盤が継続的に発展し、電力インフラの整備が加速するとともに、AIアプリケーションへの需要が拡大すれば、中国のAIデータセンター市場は長期的な成長局面を維持する可能性が高い。

ウランチャブの計算能力が実際に市場へ放出されるまでには、なお時間がかかる。それでも長期的な視点に立てば、再生可能エネルギー、電力インフラ、蓄電、AI計算能力を一体化するウランチャブのモデルは、中国のAIインフラ拡大を象徴する存在になりつつある。

草原に建設される巨大データセンターは、単なる「AIの工場」ではない。風と太陽から生まれた電力を計算能力へ変換し、最終的にTokenというデジタル生産物を生み出す――。ウランチャブは今、その「Token工場」の中核拠点へと変貌しつつある。

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