「モリブデン」が多層化するNANDの必須材料に、成膜装置で10億ドル超の追加市場

半導体業界では、NANDフラッシュメモリの高層化に伴い、従来のタングステン(W)からモリブデン(Mo)への材料転換が進み始めている。2027年だけでNAND向けモリブデン成膜装置の売上高は10億ドル(約1593億円)を超える見通し。さらにDRAMやロジック半導体でもモリブデン採用が進めば、30年には年間約20億ドル規模まで市場が拡大する可能性がある。

米半導体業界の調査会社SemiAnalysisは23日、NANDフラッシュの製造工程でタングステンからモリブデンへの切り替えが進んでおり、NANDが300層を超えると、モリブデンが不可欠な材料になるとの分析を発表した。

3D NANDの積層数が300層を超えると、タングステンを使ったワードラインは、抵抗、化学的な適合性、深孔への充填という3つの面で物理的な限界に近づく。このため、モリブデンへの置き換えが必要になるという。

すでに韓国サムスン電子は2024年にモリブデンを採用した製品の量産を開始し、米Micron(マイクロン)も25年に追随。韓国SKハイニックスは26年末に、375層のモリブデン工程を採用した製品を投入する計画だ。SemiAnalysisは、NAND全体の生産能力に占めるモリブデン採用比率が、25年の「数%台」から27年には約30%まで上昇すると予測している。

モリブデン成膜装置が10億ドル超の市場に

そして、この材料転換によって新たに生まれる巨大市場が、モリブデン成膜装置だ。SemiAnalysisによれば、タングステンからモリブデンへの切り替えは、単純な材料変更にとどまらず、新たな成膜装置の導入を必要とする。

同社の試算では、27年だけでNAND向けモリブデン成膜装置の売上高は10億ドル(約1593億円)を超える見通し。さらにDRAMやロジック半導体でもモリブデン採用が進めば、2030年には年間約20億ドル規模まで市場が拡大する可能性があるとしている。

恩恵を受ける企業としては、まず米Lam Research(ラムリサーチ)が挙げられ、続いて東京エレクトロンが続く。米Applied Materials(アプライドマテリアルズ)、ASM International、中国の北方華創(Naura)などは、その後のDRAMやロジック半導体での材料転換によって、より大きな恩恵を受ける可能性があるという。

SemiAnalysisは、これらを含む詳細な市場規模の試算を、前工程製造装置(WFE)のモデルに組み込んでいるとしている。

モリブデン導入で「NANDのコスト低下」

高層NANDでモリブデンの採用が進む背景には、単に新しい材料を使いたいという事情だけではない。その本質は、NANDの1ビット当たりコストを引き下げていく従来のコスト低下曲線を、さらに延長することにある。

300層世代のNANDでは、主に構造面での進化が進んでいる。超高アスペクト比のチャネルホールのエッチング、多段階のStack積層、ウエハーの反り制御、Overlay(重ね合わせ)精度の向上などが中心だ。

しかし375層、さらには400層を超える世代になると、構造だけでなく材料そのもののアップグレードが必要になる。タングステン製のワードラインでは、ワードライン間隔が狭くなり、チャネルホールの微細化が進むにつれてRC遅延が急速に悪化する。また、WF系材料に由来するフッ素残留による絶縁膜へのダメージや、リーク電流による不良率の上昇、充填欠陥の増加なども問題になる。これに対しモリブデンは、低い電気抵抗率、フッ素を含まない前駆体、バリア層を必要としないことなどがメリットとなる。

これによってRC特性やデバイスの信頼性を改善し、ワードラインやメモリーホールのさらなる微細化に必要なプロセス上の余裕を確保できる。結果として、高層NANDにおけるコスト低下を継続できる可能性がある。

サムスンに続きSKハイニックスも採用へ

中銀証券によると、SKハイニックスは375層3D NANDの生産検証を完了しており、26年末の量産を計画している。ワードラインにはタングステンに代わってモリブデンを採用する予定だ。サムスンも第9世代の286層3D NANDでモリブデン工程をいち早く導入している。主要メモリメーカー2社が相次いでモリブデンへの切り替えを進めることで、「タングステンからモリブデンへ」という流れが本格的に定着しつつある。

ただし、モリブデンは加工がより複雑という課題も抱える。モリブデンの前駆体は気体として供給する必要がある一方、室温では固体であるため、安定した流動性を確保するには加熱装置が必要になる。そのため、300層を超える3D NANDでワードラインの材料をタングステンからモリブデンへ変更することは、単にターゲット材料やガスを置き換えるだけでは済まない。前駆体の供給、ALD成膜チャンバー、エッチング、洗浄、排ガス処理まで、一連の製造プロセスを再構築する必要がある。従来のタングステンCVD製造ラインのハードウエアをそのまま流用することも難しい。そのため、モリブデンへの移行は、半導体メーカーの設備投資を直接押し上げる可能性がある。同時に、製造装置だけでなく、特殊材料や部品にも変化が波及することになる。

モリブデン導入は本質的に「製造工程全体の再構築」が必要となる。「成膜・前駆体供給 → CMP・洗浄 → エッチング → 計測・検査」という流れで装置産業全体に波及する可能性がある。

タングステンで成熟しているWF系プロセスに対し、モリブデン成膜では、高アスペクト比構造における充填性能や欠陥を制御するため、新たなプロセス条件を確立する必要がある。一方、バリア層の使用を減らせる可能性もあり、成膜装置や周辺プロセスのアップグレード需要につながるとみられる。

モリブデンの前駆体は、従来のWF系のガス状前駆体とは異なり、低揮発性の固体原料が一般的だ。そのため、安定した供給を実現するために、新たな気化装置や温度制御配管、高精度ガス供給システムなどが必要になる。

モリブデンは従来の金属材料とは酸化特性や表面化学特性が異なるため、平坦化性能や除去速度、欠陥制御を実現するには、CMP用の研磨液や研磨パッドについても新たな開発が必要になる。

モリブデンの導入によって、残留物や酸化物の種類も変化する。特に高アスペクト比構造では、金属残留物や汚染物質の管理が難しくなるため、ウェット洗浄装置や関連薬品の導入・検証が進む可能性がある。

エッチング工程でも、モリブデンに適した新たなプロセス条件の確立が必要となる。さらに3D NANDの積層数が増え続けることで、エッチング選択比、側壁形状の制御、層間均一性に対する要求も一段と高まる。これにより、エッチング装置のアップグレード需要が拡大する可能性がある。

またモリブデンの量産化には、膜厚の均一性、充填欠陥、金属残留物、電気的信頼性など、新たなモニタリング項目も必要になる。その結果、薄膜計測、欠陥検査、電気特性試験などの装置需要も押し上げられる可能性がある。

NANDの次の競争は「積層数」から「材料×装置×工程」へ

今回のモリブデン導入が示しているのは、NANDの技術競争の軸が変わりつつあることだ。これまでの3D NANDでは、何層まで積み上げられるかが技術競争の中心だった。しかし、300層、375層、400層と積層数が増えていくにつれて、単純な積層技術だけでは限界を突破できなくなっている。今後は、材料、製造装置、プロセス技術を一体化した開発がより重要になる。

SemiAnalysisは、NANDのプロセス革新は「単純な積層数競争」から、「材料・装置・工程の協調的なイノベーション」へ移行すると分析している。成膜、エッチング、洗浄、計測・検査といった主要工程に新たな設備投資を呼び込み、関連する部材や部品メーカーにも需要が波及する可能性がある。

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