欧州で中国製5G機器全面排除の動き、華為は仏新工場の売却検討か

欧州で5G(第5次移動通信システム)ネットワークの整備が遅れるなか、欧州各国の間で中国製通信機器への警戒感が一段と強まっている。中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ、広東省深セン市)がフランス東部に新設した工場の売却を検討しているとされ、欧州連合(EU)が安全保障を理由に中国製5G機器の全面排除へ向けた法的拘束力のある規制策定に動き出したことが背景にあるとみられる。
欧州では近年、米国の働きかけを受け、中国製通信機器を国家安全保障上の「リスク」とみなす国が増加している。特に第1次トランプ政権時に、米国が華為をはじめとする中国製通信機器の禁輸を開始するに伴って、オーストラリア、ニュージーランド、英国、フランス、スウェーデンといった米国の同盟国が相次いで華為や中興通訊(ZTE)の5G機器を排除する措置を導入した。2020年に英国は新規調達を禁止し、2027年までの全面撤去を決定。フランスも2028年までに華為製機器を廃止する方針を示した。
今年11月には、欧州委員会が加盟国に対し、華為・中興製品をモバイルネットワークから段階的に除外する案を提示。フィンランド、ドイツ、スペイン、ギリシャなど一部には依然として中国製機器を採用する国もあるが、制限強化を検討する動きが広がっている。ドイツではメルツ首相が専門家委員会を設置し、次世代6Gで中国製部品を排除する方向性を打ち出した。
こうした環境の変化の中で、華為が2020年に建設を決めたフランス初の製造工場が宙に浮いている。同工場は総投資2億ユーロ(365億円)。4G/5G基地局向け無線機器の欧州市場供給拠点として期待され、今年9月にストラスブール近郊で竣工した。しかし、欧州での中国製5G設備排除の加速により、操業再開の見通しが立たないという。
複数の地方政府関係者や企業幹部によると、工場は現在空のままで、華為は「工場の将来について決断していない」状態とされる。選択肢には売却が含まれており、すでに複数の企業が現地を視察しているという。計画内容が不透明になったことで、政府が合意していた80万ユーロの補助金も取り消された。
欧州では華為の4G・5G設備は依然として35〜40%のシェアを占めるものの、採用拡大の勢いは鈍化している。Systematic Paris-Regionのジャン=リュック・ベイラ会長は「製品は優れているが、安全保障問題が成長を阻害している」と指摘し、欧州の5G市場の立ち上がりが想定を下回っていると述べた。
フランス大統領府関係者は、「主権を尊重しつつ中国投資を歓迎するが、通信は国家主権に関わる分野であり、適切な規制が必要だ」と説明。華為のフランス工場を巡る混迷は、欧州の安全保障政策の転換が企業戦略に直撃していることを象徴している。



