世界でスマートカード用チップが成長、中国がリード

スマートカード用チップ業界が新たな成長サイクルに入っている。2025年の世界市場規模は380億ドル(約5兆8292億円)を突破する見通しで、中でも中国は年平均12%以上の成長率で世界をリード。欧米の大手とアジア太平洋の新興勢力による主導権争いの中、技術革新と産業再編が同時進行している。

スマートカード用チップ市場では、地域ごとの成長格差が一層明確になり、アジア太平洋地域が圧倒的な成長エンジンとなっている。25年、同地域の市場規模は約92億7000万ドルに達し、年平均成長率8.8%は北米の4.6%、欧州の5.1%を大きく上回る。中国とインドのデジタル化とモバイル決済普及がその原動力だ。中国市場は420億元(約35%の世界シェア)に達する見通しで、金融ICカード、行政カード、IoT用eSIMカードがそれぞれ38%、22%、33%を占める。

一方、欧米のスマートカード用チップ市場では構造的な変化が進んでいる。北米が保持しているシェア37%は、ハイエンド金融決済や行政向けセキュリティ需要が寄与し、欧州のシェア29%は産業用IoT(モノのインターネット)や車載電子分野が中心となっているものの、いずれも業界成長率は世界平均を下回る。東南アジアや中南米など新興市場では政策主導の成長が目立ち、タイは国家暗号アルゴリズムSM4を電子パスポート規格に採用。ベトナムは社会保障カードのチップ更新を開始しており、中国メーカーに年平均15%の輸出成長余地をもたらしている。

NXPとインフィニオンが2大寡占

競争環境では、「2大寡占+ローカル台頭」という構造が続く。オランダの半導体大手NXP Semiconductors N.V.(NXPセミコンダクターズ)と半導体大手の独Infineon Technologies(インフィニオン・テクノロジーズ)が特許ネットワークとエコシステム戦略により世界のハイエンド市場の75%以上を掌握。NXPの「SmartMX」シリーズは世界の銀行ICカードの85%を占め、中国銀聯(ユニオンペイ)の規格カード市場でも73%のシェアを維持する。インフィニオンは政府の身分証分野を主導し、生体認証証明書市場で68%のシェアを持つ。両社は合計1万2000件の関連特許を保有し、そのうち43%が中核技術特許で、技術的な参入障壁を築いている。

中国勢が台頭

しかし、中国勢の台頭がその構図を変えつつある。25年には国産CPU(中央演算処理装置)を採用したスマートカードチップの国内シェアが75%に達する見込みで、マイクロ電子製品メーカーの紫光国芯微電子(北京市)と華大半導体(上海市)の2社が国内市場の73%を占める。紫光国微は金融ICカードで42%、華大半導体は社会保障・交通カードで31%のシェアを確保。コスト競争力と政策適合性を武器に、中低価格帯市場の大部分を置き換えることに成功した。

スマートカードチップの技術進化は「安全性」と「適応性」を軸に展開されており、現在は「規制対応型」から「革新主導型」への転換期を迎えている。製造プロセスは180ナノメートル(nm)から40nmへの移行が完了し、紫光国微や復旦微電などが40nmノードを突破。歩留まりは92.5%に達し、高性能品では国際水準との差が1~2世代分に縮まった。65nm製品の限界コストは0.07ドル/枚まで低下し、スケール効果が拡大している。

耐量子暗号が焦点

安全技術では、量子計算時代を見据えた「耐量子暗号(PQC)」が焦点だ。PCI6.0規格は27年までに耐量子暗号アルゴリズムの商用化を求めており、1枚あたりのコストが12〜15%上昇する一方、寿命が8〜10年に延びることで負担を吸収できる。国内では問天量子が大学と共同でチップレベルの耐量子暗号を開発し、従来の国産暗号SMシリーズと耐量子アルゴリズムの両立を実現した。中国政府は26年までに金融ICカード・社会保障カードのSM4アルゴリズム全面切り替え、28年までにモバイル決済でSM2アルゴリズムの100%普及を求めており、金融分野だけで15億枚の更新需要が発生、約22億5000万元の新市場を形成する見通しだ。

RISC-Vの採用も拡大

オープンソースアーキテクチャ「RISC-V」の採用も進み、25年にはアジア太平洋地域のスマートカードチップでのシェアが19%に達する見通し。華為海思(HiSilicon)などが同アーキテクチャを用いた独自チップを小規模量産している。カード型デバイスの比率は低下し、25年にはデジタル人民元ハードウォレットにおけるカード型の構成比が85%から52%へ下がる一方、ウェアラブル端末やIoTモジュールが急成長。チップは「安全アルゴリズム+エッジコンピューティング」の二重構造へと進化している。接触・非接触の両対応チップは主流化し、国内比率は2020年の35%から2024年には78%へと上昇、多機能統合が競争力の鍵となった。

世界シェアは41%へ

25~30年にかけて、スマートカードチップ業界は「規模拡大と構造高度化の並行発展」が進む。30年の世界市場は653億7700万ドルを超え、年平均成長率は6.8%と予測される。IoT向けeSIM(組み込み型SIM)カードは最速の成長を続け、2025年には25億枚を突破する見通しだ。中国は依然として牽引役であり、30年にはSM2/SM4対応チップの出荷量が45億個を超え、世界シェアは25年の29%から41%へ上昇する。

国産化は中低価格帯の置き換えから高付加価値分野への浸透へと進む。金融ICカードや社会保障カードで優位を確立した国内メーカーは、今後は車載や決済用チップの開発に注力する。政策支援と研究投資が相乗効果を発揮し、主要メーカーの研究開発投資比率は18.7%に達しており、世界平均を上回る。産業連携の深化により、先端プロセスと暗号技術の格差はさらに縮まる見込みだ。

V2Xや産業用IoT

応用分野の融合も新たな成長ドライバーとなる。デジタルIDが中核用途として浮上し、30年には世界市場における比率が31%から49%に上昇する見通し。欧州連合(EU)の「デジタルユーロウォレット」やインドの「Stack」計画などが、分野を横断した認証需要を押し上げる。車載通信(V2X)や産業用IoTの普及により、チップは高信頼・低消費電力化へ進化し、車載対応や産業制御向けの高セキュリティチップが競争の焦点となる。

業界の集中も進む。CCEAL6+認証制度や国産暗号アルゴリズム義務化によって、低品質な20%の生産能力が淘汰される見込みだ。技術・規模・流通網で優位に立つ大手はさらにシェアを拡大し、標準の違いによる市場の断片化が進む中、複数基準を跨いで適合できる技術仲介企業が新たな成長余地を得る見通しだ。

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