トランプ米大統領、600MHz帯域の競売を表明

米国のトランプ大統領は現地時間25日、自身が創設したSNS「Truth Social(トゥルース・ソーシャル)」において、600メガヘルツ(MHz)帯域の周波数を解放し競売にかける意向を表明した。「米国を再び偉大にするための一歩だ」と述べ、通信業界に大きな波紋を呼んでいる。

トランプ氏は、「この措置は、Wi-Fi、5G(第5世代移動通信システム)、6G分野において米国のグローバルリーダーシップを維持し、すべての米国人を世界最高品質のネットワークに接続し、同時に通信の安全性を確保するものだ」と強調した。

600MHz帯域とは、一般的に580MHz〜698MHzの範囲にある低周波数帯を指す。この帯域は、信号のカバー範囲が広く、建物の壁などへの浸透性が高いことから、5Gや将来の6Gネットワークにおいて、広域かつ安定した通信の基盤を築く上で理想的な周波数とされている。また、ネットワークの構築コストも比較的低い。

特に、スマートメーターや農業用センサーといったIoT(モノのインターネット)用途において、600MHzのような低周波数帯は省電力かつ広範囲の接続に適している。さらに、車車間通信(V2X)や自動運転支援通信、災害・戦時の緊急通信ネットワーク構築にも有用だ。中高周波帯やミリ波では実現が難しい多様な用途に対応できる点で、戦略的に非常に価値が高い。

米中で異なる5G周波数戦略

では、なぜ米国は今になってこの低周波数帯に注目し始めたのか。米国は5Gの初期において、主に高周波数帯のミリ波を重視していた。しかし2020年、米国連邦通信委員会(FCC)はこの方針を転換し、中周波数帯へのシフトを正式に発表。結果的に、米国は5Gの展開において2年間の遅れを取ることになった。

一方、中国は当初より中周波(3.5GHz、2.6GHz)を主力とし、低周波で補完、ミリ波で高帯域対応というバランス型の戦略を採用してきた。さらに政府主導で旧世代(2G/3G/4G)やテレビ放送用途の周波数を5G用に再割当てする「周波数の再耕作」を進め、中国移動の700MHz、中国電信の800MHz、聯通の900MHzなど、各社に「黄金帯域」を確保させた。

これにより、中国では都市部から農村部に至るまで安定的な5G通信網が迅速に構築された。今年初めには、ミリ波での実証実験も進み、8K放送や統合型センサーネットワークなどの先進的な応用が始まっている。

こうした実績から、中国の5Gモデルは「産業の発展規律に合致した」ものとして国際的にも高く評価されており、米国の再注目もこうした成功例を参考にしたものとみられる。

米国は中国の「正解」を模倣できるか

ただし、米国が同様の成果を得るのは容易ではない。中国の5G成功は「有為な政府」と「有効な市場」の連携によって支えられてきたが、米国は制度や市場環境においてそのような体制を持ち合わせていない。

中国政府は全国的な周波数の計画配分を統一的に実施し、通信事業者間の無駄な競争を回避。また、中国鉄塔公司の設立によってインフラ共有も進み、5Gネットワークの迅速な整備が可能となった。

一方、米国では周波数帯の競売が常態化しており、通信事業者がそれぞれ高額で購入した帯域を「私有資産」として扱うため、相互の協調やインフラの共用が進みにくい構造となっている。

さらに、米国は通信機器製造においても海外依存が大きく、HuaweiやZTEのような国産設備企業を持たない。そのため、ネットワーク構築コストは高く、柔軟性にも乏しい。

5G応用面でも、中国は産業、医療、交通など幅広い分野で専用ネットワークやスライス技術を活用し、事業者が明確なビジネスモデルを確立しつつあるのに対し、米国では企業向け5Gサービスの進展が限定的。製造業のデジタル化も立ち遅れており、5Gによる生産性向上の余地が十分に活かされていない。

地理的要因も影響する。米国は国土が広く、人口密度が低い地域も多いため、600MHz帯のような低周波数帯でも全国レベルで高品質な通信を確保するには莫大な投資が必要となる。

トランプ氏が600MHz帯の競売を打ち出したことで、米国の5G構築方針に新たな転機が訪れる可能性はあるが、中国のような迅速かつ効率的な展開を期待するには制度的・構造的なハードルが多い。

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