米シンクタンク、トランプ政権の半導体関税に警鐘
「25%課税で米経済に10年で1.4兆米ドルの損失」

米ワシントンの公共政策シンクタンク、Information Technology and Innovation Foundation (ITIF、情報技術・革新基金)は21日、もしトランプ大統領が提唱する25%の半導体関税が導入された場合、米国経済に甚大な悪影響をもたらすとの分析レポートを発表した。
レポートによると、関税の初年度だけで米国GDP(国内総生産)は0.18%縮小、さらに10年間にわたり継続された場合の累積損失は1兆4000億米ドル(約201兆8800億円)に達する可能性があると試算。これは10年目のGDPの約4.8%に相当する。
自動車価格も直撃、AI競争力にも悪影響
関税により半導体コストが25%上昇すれば、自動車メーカーがそのコストを吸収するか、消費者に転嫁するかの選択を迫られることになる。報告書は、1台あたり最大で1000米ドルの価格上昇が起こり得ると警告。自動車は米国民の生活に密着した製品であるため、影響は即座に体感されるとされる。
また、電気自動車(EV)分野への影響も深刻で、EVは従来車の20倍の半導体を必要とするため、価格上昇による普及の鈍化が予想される。
加えて、AI(人工知能)開発にも逆風が吹く可能性が高い。トレーニング用のチップコストが上昇すれば、AIモデルの開発費用も高騰し、米国のAI分野での競争力が低下する。一方で中国は、政府による積極的な補助金政策を背景に、同様のコスト制約を受けずに競争優位性を拡大する可能性がある。
レポートでは、10年間にわたる25%の関税実施によって得られる税収よりも、経済縮小による税収の減少の方が大きくなると予測。その差額は1650億米ドルの損失と見込んだ。また、国民1人あたりの生活水準は初年度で122米ドル、10年間で累計4208米ドルも減少する見込みだ。
米国内製造への転換にも課題
トランプ氏の「輸入を減らし、国内製造に切り替えればいい」という主張に対しても、同レポートは懸念を示す。現在、世界で生産される半導体のうち米国のシェアはわずか12%に過ぎず、サプライチェーンの柔軟性や生産能力の面で依然として限界がある。自動車メーカーが急激に米国製チップに切り替えれば、パンデミック後のような供給ひっ迫の再来もあり得るという。
半導体受託生産(ファウンドリー)世界大手の台湾積体電路製造(TSMC、台積電)のアリゾナ子会社も5月初旬に米商務省へ意見書を提出し、半導体関連関税の免除を求めた。米国の安全保障に資する同社の米国工場計画への支援も訴えている。
今回のITIFの報告書は、単なる経済的損失だけでなく、米国が半導体およびAI技術における世界的リーダーシップを失う危機を強く示唆している。