長シン存儲、HBM3Eのリスク試作を開始か 数週間以内に量産移行の可能性

中国のDRAM大手である長シン存儲(CXMT)が次世代メモリ「HBM3E」のリスク試作を開始したと、米テクノロジーメディアThe Informationが1日報じた。韓国のSKハイニックス、サムスン、米Micron Technology(マイクロンテクノロジー)の3社が主導するHBM(高帯域幅メモリ)市場で、中国メーカーが初めて主流世代の製品を量産する目前まで到達したことを意味する。
リスク試作から量産へ、数週間で移行か
「リスク試作(risk production)」とは、半導体製造において正式な大規模量産に入る前の重要な検証段階を指す。生産ラインは量産を想定した基準で稼働しているものの、歩留まりや製品の均一性、信頼性などについてはなお改善の余地がある。この段階で投入したウエハーに不良が発生した場合、その損失はメーカー側が負担することから「リスク試作」と呼ばれる。
報道によると、長シン存儲のHBM3Eの生産規模は現時点ではなお極めて限定的で、リスク試作の初期段階にあるとみられる。
長シン存儲はこれまでにもリスク試作から大規模量産へ短期間で移行する能力を示してきた。こうした実績を踏まえると、HBM3Eについても数週間以内に本格的な量産段階へ移行する可能性があるとしている。ただし、現時点で長鑫のHBM3Eの具体的な製品仕様は公表されていない。
HBM3E、帯域幅は最大1.2TB/s
半導体技術の標準化団体JEDECの規格によると、HBM3Eは1024ビットのインターフェース幅を採用し、ピン当たりのデータ転送速度は9.2Gbps~12.4Gbps。標準構成の多くでは9.6Gbpsが目標速度となっている。9.6Gbpsの一般的な構成では、HBM3Eの総帯域幅は最大1.2TB/sに達する。
容量については、24GbのDRAMチップを8層積層する「8-Hi」構成の場合、1スタック当たり24GBとなる。12層を積層する「12-Hi」構成では、容量を36GBまで引き上げられる。HBMが重要視されているのは、AI(人工知能)向け演算チップが抱える「メモリーの壁」の問題を解消できるためだ。
従来のDDRメモリと異なり、HBMはTSV(シリコン貫通電極)技術を用いて複数層のDRAMを垂直方向に積層する。さらに、GPU(画像処理半導体)やAIアクセラレーターなどのプロセッサーとシリコンインターポーザーを介して高密度にパッケージングすることで、極めて限られた面積で従来方式を大きく上回るメモリー帯域幅を実現する。
現在の主流AIトレーニングチップでは、1枚のアクセラレーターカードに搭載されるHBM容量が数十GBから100GB超へと拡大している。HBMの供給能力とコストは、AIコンピューティング能力の拡大ペースを直接左右する重要な要素となっている。
生産能力の拡大も加速、年末には月産35万枚を計画
HBM開発の進展と並行して、長シン存儲は全体の生産能力拡大も進めている。報道によると、同社は現在、生産能力の拡張を計画しており、今年末までにDRAMの製造能力を月産35万枚のウエハーまで引き上げる見通しだ。その後も今後数年間にわたり、生産能力をさらに拡大する計画という。
こうした急速な増産を支える要因の一つが、長シン存儲の工場建設における強みだ。1つの半導体工場のクリーンルームをわずか12カ月で建設できるという。一般的なメーカーでは通常2年程度を要するとされる。クリーンルームは、半導体工場の中でも最も厳格な環境管理が求められる中核施設であり、その建設期間は新たな生産能力を市場に投入するまでの時間を大きく左右する。
この工程を半分程度に短縮できれば、生産能力を需要に応じて迅速に拡大できる柔軟性が高まる。半導体市場が上昇局面に入った際にも、長鑫はより短期間で受注を取り込める可能性がある。
SKハイニックス、サムスン、マイクロンが先行
現在、世界のHBM市場はSKハイニックス、サムスン電子、マイクロンの3社が主導している。なかでもSKハイニックスは先行者として長年トップの座を維持しており、米半導体大手NVIDIA(エヌビディア)をはじめとする大手AIチップメーカーの主要サプライヤーとなっている。
HBMは現在、メモリーメーカーの収益構造において最も重要な高付加価値製品の一つとなっており、3大メーカーはいずれも生産能力をHBMへ重点的に振り向けている。こうした市場環境のなかで、長シン存儲がHBM3Eに参入する意味は大きい。
第一に、HBMは現在のDRAM市場で最も付加価値の高い製品分野の一つであり、量産能力を確立できるかどうかが、メモリメーカーとして今後の競争力を左右する。
第二に、中国国内でAIチップ産業が急速に発展し、AIコンピューティング能力の「自立」を求める動きが強まるなか、国内でHBMの供給能力を確立することは、高性能メモリの海外依存を緩和するうえで現実的な意味を持つ。仮に長シン存儲が数週間以内にHBM3Eの大規模量産へ移行できれば、中国メモリ産業にとって象徴的な転換点となる可能性がある。




