米NVIDIA、中国向けAIチップ「H20」の生産を一時停止か

米半導体大手、NVIDIA(エヌビディア)が、中国市場向け設計したAIチップ「H20」の生産を一部サプライヤーに停止するよう要請したという。米ブルームバーグなど米紙各社が22日伝えた。
報道によれば、同社は米ファウンドリー(半導体受託製造)のAmkor Technology(アムコー)に対し、今週からH20の生産を中止するよう指示し、あわせて韓国サムスン電子にも通知した。AmkorはH20における先端パッケージング工程を担い、サムスンはHBM(高帯域幅メモリ)を供給している。さらに、鴻海精密工業(フォックスコン)にも開発作業の停止を求めた模様で、同社は後工程を担当する重要な部品供給企業の一つだ。
一方、エヌビディアの広報担当者は声明で「市場環境に対応するため、当社は常にサプライチェーンの管理を行っている」とコメント。また「H20は軍事利用でも政府基盤向けでもなく、中国政府が米国製チップに依存しないのと同様、米国政府も中国製チップに依存していない」と強調した。
関係者によれば、同社には現時点でH20の中国向け生産ラインを再開する計画はない。その理由として、台湾積体電路製造(TSMC、台積電)の生産能力が他顧客向けに再配分されており、再開する場合は少なくとも9カ月を要するとみられている。需要の高まりから量産化されたH20だが、状況の変化により供給網への停止通知が出されたという。
生産能力が限られるなか、エヌビディアは既存在庫の処理を優先しつつ、米輸出規制に準拠した新世代AIチップ「B30A」や「RTX PRO 6000D」の開発を加速、中国市場における高度な計算需要に対応する方針だ。
エヌビディアのJen-Hsun Huang(ジェンスン・ファン)最高経営責任者(CEO)は8月上旬、ホワイトハウスでトランプ米大統領と会談した後、米商務省はH20の対中輸出を許可するライセンス発給を開始したとされる。さらに、エヌビディアとAdvanced Micro Devices(AMD、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)は中国向けチップ販売収入の15%を米政府に納付することで、輸出許可を得る条件を受け入れたとの報道もある。アナリストは「エヌビディアはコストを中国側に転嫁でき、H20の価格を18%引き上げられる」と予測しており、利益率の影響は限定的とみている。
ただし、7月31日には中国国家インターネット情報弁公室がエヌビディアを呼び出し、H20に「バックドア」などのセキュリティリスクがあると指摘し、説明と証拠の提出を求めた。同社は「チップに遠隔アクセスや制御を可能にする仕組みは存在しない」と否定している。
一方、中国国家インターネット情報弁公室は公告で「エヌビディアの計算力チップに深刻な安全上の問題が露呈した」と表明。米議員が先端チップに「追跡機能」搭載を求めていたことや、米AI専門家が「追跡・遠隔停止技術はすでに成熟している」と明かしたことも重なり、中国政府はサイバー・データセキュリティー確保の観点から厳格な調査姿勢を示している。



