韓国、半導体の輸出管理を強化 高性能AIチップと先端製造装置を「戦略物資」に追加

韓国政府は先端半導体分野の輸出管理を強化する。一部の高性能AI半導体や先端半導体製造装置を「戦略物資」に追加し、9月1日から、韓国企業が技術基準を満たす対象製品を輸出する際には、事前に政府の許可を取得することを義務付けた。
韓国産業通商資源部によると、改正された「戦略物資輸出入告示」は9月1日に正式に施行された。今回の改正では、7月13日から8月12日まで実施した意見募集を踏まえ、国際的な輸出管理レジームで合意された約80項目の改定内容を韓国内の規定に反映した。
今回の改正では、AI半導体や先端半導体製造装置の輸出管理対象を拡大したほか、一部の高エネルギー密度二次電池について規制対象となる基準を引き上げた。また、輸出許可申請時に提出を求めていた「輸出者誓約書」を廃止した。
高性能AIチップ、総処理性能6000以上を規制対象に
今回の戦略物資リスト改定で、特に重点が置かれたのが半導体分野だ。新制度では、一部の高性能AI(人工知能)IC(集積回路)に加え、一定の技術仕様を満たす露光装置、エッチング装置、成膜装置などの先端半導体製造装置が新たに戦略物資に指定された。対象製品を9月1日以降に輸出する企業は、韓国産業通商資源部に申請し、輸出許可を取得する必要がある。
AI集積回路については、製品の演算性能を基準の一つとして規制対象を判断する。新たな管理基準では、「総処理性能」が6000以上の製品が規制対象となる。これにより、AIの学習や推論、高性能コンピューティング(HPC)などを主な用途とする高演算能力チップの一部が、戦略物資として輸出管理の対象となる可能性がある。
もっとも、今回の改正はすべてのAIチップを一律に規制するものではない。対象となるかどうかは、チップの演算性能や製品仕様、用途などに基づいて判断される。企業は輸出に先立ち、自社製品が規定された管理基準を満たしているかを確認する必要がある。
露光・エッチング・成膜装置も対象
半導体製造装置についても、一定の技術仕様を満たす露光、エッチング、成膜装置が新たに管理対象となった。
露光装置は回路パターンをウエハー上に形成する工程、エッチング装置は不要な材料を除去する工程、成膜装置は薄膜を形成する工程で使用される。いずれも先端ロジック半導体やメモリなどの製造に欠かせない主要工程であり、先端プロセスの生産能力を左右する重要な装置だ。
ただし、こちらもすべての露光・エッチング・成膜装置が規制対象となるわけではない。装置の性能や仕様が韓国政府の定める技術基準を満たしている場合に、戦略物資として扱われる。そのため韓国の半導体装置メーカーや輸出企業にとっては、製品ごとに該当性を確認し、必要に応じて輸出許可を取得する体制が求められることになる。
米国・EU・日本に歩調合わせる
韓国政府は、高性能AI半導体や先端半導体製造装置が世界的に輸出管理の重点分野となっていることを今回の制度改正の背景として挙げている。米国、欧州連合(EU)、日本など主要経済圏も、一部のAI半導体や先端製造装置について輸出規制を導入している。
韓国としても、こうした国際的な輸出管理の枠組みに沿って、先端技術を含む軍民両用(デュアルユース)製品を戦略物資として管理する体制を強化する。
韓国はサムスン電子やSKハイニックスなど世界有数のメモリーメーカーを抱えるほか、半導体製造装置や素材関連企業も多数存在する。今回の規制強化は、韓国国内の半導体サプライチェーン全体に一定の影響を及ぼす可能性がある。
二次電池では規制基準を緩和
一方、今回の改正は規制強化一辺倒ではない。高エネルギー密度の二次電池については、戦略物資に該当する基準が緩和された。従来は、20℃の条件下でエネルギー密度が350Wh/kgを超える製品が規制対象となっていたが、新制度では基準を500Wh/kg超へ引き上げた。
これにより、エネルギー密度が350~500Wh/kgの範囲にある二次電池は、この基準だけを理由として戦略物資に指定されることはなくなる。
輸出企業の手続き負担を軽減
輸出企業の行政手続きの負担を軽減する措置も盛り込まれた。今回の改正では、これまで輸出許可申請時に別途提出する必要があった「輸出者誓約書」を廃止した。ただし、誓約書に記載されていた輸出者の責任や義務そのものがなくなったわけではない。関連する責任・義務は告示本文に直接盛り込まれ、引き続き輸出企業に求められる。
また、専門判定申請書、包括輸出許可申請書、最終需要者確認書、輸入目的確認書、最終荷受人・購入者確認書などの関連書式も改定した。用語や記入方法をより明確にすることで、企業が輸出管理手続きを進めやすくする狙いがある。なかでも「専門判定」は、輸出しようとする製品が戦略物資に該当するかどうかを確認するための重要な手続きとなる。
AI半導体を巡る輸出管理競争が新たな局面へ
今回の韓国の制度改正は、AI半導体と先端半導体製造装置を巡る国際的な輸出管理競争が、新たな段階に入ったことを示している。AI向け半導体の高性能化が進む一方、先端半導体の製造には高度な露光、エッチング、成膜技術が必要となる。そのため、半導体そのものだけでなく、「AIチップを作るための製造能力」そのものが戦略的な管理対象になりつつある。
韓国企業にとっては輸出管理への対応コストが増える一方、国際的な規制基準との整合性を高めることで、主要国とのサプライチェーン協力を維持しやすくなる側面もある。
今後は、米国を中心とする輸出規制の動向に加え、日本、韓国、EUなど主要半導体生産国・地域がどこまで規制の足並みをそろえるかが、グローバルな半導体サプライチェーンを左右する重要な論点となりそうだ。




