中東情勢で「ヘリウム危機」、供給3割消失で半導体・医療に衝撃

中東情勢の緊張が、世界のハイテク産業と医療体制に深刻な影響を及ぼし始めている。イラン革命防衛隊による報復空爆がカタールの主要ヘリウム生産施設を直撃し、世界供給の約33%が一夜にして失われたとされる。

カタールは世界第2位のヘリウム輸出国であり、その供給停止は半導体製造や医療分野にとって致命的な打撃となる。

ヘリウムは一見目立たない資源だが、実際には半導体エッチング工程、EUV(極端紫外線)リソグラフィー(露光)装置の安定稼働、MRI(磁気共鳴画像装置)の超低温維持、光ファイバー製造、粒子加速器などに不可欠な基盤素材だ。供給が止まれば、先端産業の多くが機能停止に陥る可能性がある。報道によると、カタールの生産能力の約14%が恒久的に損傷し、完全な復旧には最短でも5年を要する見通しだという。

すでに各国・地域では影響が広がりつつある。韓国では、ヘリウム輸入の大半をカタールに依存しており、サムスン電子やSKハイニックスが減産対応に入ったとされる。台湾では、世界有数の半導体受託生産(ファウンドリー)世界大手の台湾積体電路製造(TSMC、台積電)が状況を注視しているものの、供給停止が長期化すれば7ナノメートル(nm)以下の先端プロセスに深刻な影響が出るとの懸念が強い。

日本でも、半導体や医療機器産業に影響が及ぶ可能性が指摘されているほか、シンガポールではデータセンターや半導体後工程の停止リスクが浮上。インドではMRI検査のコスト上昇や診断遅延がすでに発生し始めている。

欧州でも影響は拡大している。産業ガス大手の英Linde(リンデ)や仏Air Liquide(エア・リキード)は供給制限に踏み切り、ヘリウムのスポット価格は約2倍に上昇。自動車や電子産業に対して優先供給の調整が行われている。

米国では連邦ヘリウム備蓄の減少が続く中、IT機器メーカーが価格上昇を警告。サーバーやノートPCの調達価格は15~20%上昇する可能性があるとされる。英国では医療機関が供給逼迫に直面し、緊急配給体制が検討されている。

中国も半導体と医療用途でヘリウムを輸入に依存しており、供給リスクを受けて資源確保の動きを加速。中東依存を減らすため、シベリアなどでの探査強化が進められている。

一方、代替供給源として期待されるオーストラリアも、生産能力は世界不足分の8%未満にとどまり、短期的な穴埋めは困難とみられる。

今回の供給ショックは、単なる資源問題にとどまらない。半導体、AI(人工知能)サーバー、スマートフォン、さらには医療診断機器に至るまで、現代社会を支える多くの分野がヘリウムに依存している。中東での一度の攻撃が、世界のテクノロジーと医療システム全体を揺るがす構図が浮き彫りとなっている。

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