マレーシア、「国家主権AIインフラ」構築を正式始動
華為製AIチップとDeepSeekが中核支援

マレーシア政府は19日、国家レベルのAI(人工知能)基盤インフラ戦略を正式に始動した。東南アジアで初めて、自主独立かつ全スタックのAIエコシステムを構築する取り組みで、華為技術(ファーウェイ)のAIチップ「昇騰(Ascend)」と、オープンソースの大規模言語モデル「DeepSeek」を技術中核として採用する点が注目される。華為の昇騰が海外で大規模導入されるのは今回が初めて。
20日付The Edge Malaysiaによると、国家AI基盤は、マレーシア企業「Skyvast Cloud」が運営し、昇騰AIチップを搭載したAIサーバー「AlterMatic DT250」を導入。業界標準と比較して性能は20%向上、消費電力は30%削減されており、DeepSeekの大規模言語モデル(LLM)が実装される。
初期の導入機関として、マレーシアの首相府、交通省、セランゴール州開発公社(PNSB)、Cyberview社、マレーシア工科大学(UTM)などが名を連ねている。
さらに、Skyvastとマレーシアの半導体企業Leadyo Systemsは、2026年までに国内複数拠点で高性能GPU(画像処理半導体)を3000基以上配備する計画を発表。マレーシア国内でAIネットワークを構築し、チップからアプリケーションまで国産化を図る。
この国家AI基盤は、サーバーやクラウドプラットフォームを含め、すべてマレーシア国内企業が開発・運営を担う。国家の「MyDIGITALアジェンダ」および「デジタル経済ブループリント」の中核となり、5G(第5世代移動通信システム)関連の計算基盤としても機能。公共サービスの質や国際競争力の向上、そしてデジタル主権国家への移行を後押しする。
通信部のテオ・ニー・チン(Teo Nie Ching)副大臣は、首都クアラルンプールで行われた発表会にて、DeepSeekを含むLLMを国内ホスティングすることで、個人情報保護やデータ主権を強化し、AIの主権性を確保する重要な一歩だと強調。「データが国内に保管され、マレーシア人によって管理・使用される。これが真のAI主権だ」と語った。
また同氏は、華為のAIチップとサーバー、そしてDeepSeekの海外初導入であることにも触れ、「この分野でマレーシアが東南アジア諸国連合(ASEAN)のリーダーになることを意味する」と述べた。
「マレーシア=中国信頼データゾーン」も始動
式典では、マレーシアのCyberjaya(サイバージャヤ)と中国・上海の臨港自由貿易試験区を結ぶ「マレーシア=中国信頼データゾーン」も正式にスタートした。これは両国をデジタル・インフラ、共同イノベーション、AI人材で接続するバイラテラル・データ回廊の第一弾として、マレーシア側はSkyvast、中国側は上海国際データポート社が運営を担う。
Skyvast Dataの最高経営責任者(CEO)である林志祥氏によれば、現在進行中のプルリス州における先端技術パークも完成後はこのプロジェクトに統合され、信頼データゾーンの設計も既に開始されているとした。
米国の圧力が今後の動向に影響か
こうした動きに対し、トランプ米政権が今後圧力を強める可能性もある。米商務省産業安全保障局(BIS)は今月13日、中国製AIチップのグローバル利用に関するガイドラインを発表。華為製チップを含む中国製高度AI半導体の使用が米国の輸出管理規則に違反する可能性があると警告を発した。
その後、警告の表現は注意喚起へとやや緩和され、法的拘束力のある行政命令ではなく、あくまでガイドラインにとどまっている。しかしながら、その威嚇効果は無視できない。
この背景を受け、マレーシアが中国のAIチップを国家プロジェクトに採用したことは、米国の反発を招く可能性がある。米Bloombergによると、米政府がマレーシア通信副大臣の発言について照会を求めた際、同氏のオフィスは一部コメントを撤回し、説明は行わなかったという。現時点では、本プロジェクトが今後予定通り進行するかどうかは不透明だ。