トランプ米政権、エヌビディアの「H200」の中国輸出解禁か

投資267機関が摩爾線程に殺到

AI(人工知能)向け高性能チップ市場が、かつてない転換点を迎えている。トランプ米政権が、米半導体大手のNVIDIA(エヌビディア)製AIチップ「H200」の対中輸出を認める方向で検討している。米商務省は対中輸出規制の見直しに入っており、方針は今後変わる可能性があるという。

H200はすでに中国市場で許可されている「H20」約2倍の総合性能を持ち、次元の異なる高性能チップだ。2023年11月に発表されたH200はHopperアーキテクチャを採用し、大規模AIのトレーニング・推論およびHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)用途でH100を大幅に上回る出力を誇る。「HBM3e」の採用によりメモリ帯域幅は4.8TB/秒へ、容量は141GBへと大幅に増強された。

一方、エヌビディアのJen-Hsun Huang(ジェンスン・ファン)最高経営責任者(CEO)は繰り返し「中国は不可欠な市場」と強調。今年10月には「中国でのシェアは大きく落ち込んでいる」と述べ、中国には世界のAI研究者の半数、人材・教育環境・情熱のすべてが揃っていると指摘。さらに「中国のAIチップ市場は現在500億ドル(約7兆8000億円)規模だが、30年には2000億ドルになる可能性がある。そこに参入できないのは極めて残念だ」と語っている。

AIチップの国産化進展

中国国内ではAIチップの国産化が進展している。海光信息(HYGON)、昇騰(Ascend)、寒武紀科技(Cambricon)などが一定の成果を上げ、燧原科技(Enflame)、摩爾線程(Moore Threads)、沐曦集成電路(METAX)、天数智芯(Iluvatar CoreX)、壁仞科技(BIRENTECH)といった企業も急成長。高性能AIチップの供給と国産置き換えのスピードは、今後大きな再調整局面に入るとみられる。

AI市場では「推論」向け需要が急拡大している。大規模モデルの訓練中心のフェーズから、実際のアプリケーションで推論を行う段階へと主戦場が移行。米IDCなどの調査では、27年には推論が全体の72.6%を占めると予測されている。トレーニング用と比べ推論チップは計算性能よりも低遅延・高効率が重視されるため、国内メーカーの差別化余地が大きい。

華為(ファーウェイ)の「Atlas」シリーズや寒武紀の「思元」シリーズが産業分野で採用を広げ、摩尔线程は「S5000」や「MTTS80」でGPU(画像処理半導体)市場に挑む。国産化の追い風も強く、政府の支援や企業側の安定供給志向により、本土メーカーには明確な機会が生まれている。

「中国のNVIDIA」の摩爾線程

こうした中、11月24日に「中国のNVIDIA」とも呼ばれる摩爾線程が新規株式公開の申込受付を開始。発行価格は114.28元と今年のA株市場で最高値となり、大きな注目を集めた。同社はGPUアーキテクチャを4世代開発しており、AI、高性能計算、グラフィックス向けの幅広い製品を展開している。

摩爾線程の申込は過熱状態だ。機関投資家267が応募し、7555件の管理対象が有効申し込み、総申込株数は704億株超。申込倍率は1572倍に達し、年内新株の中でも突出した人気となった。個人向け申込も482万件を超え、最終的な当選率はわずか0.036%にとどまった。

市場ではH200解禁の可能性による影響は限定的との見方も強い。寒武紀や摩爾線程は国内クラウド大手の主力ではないうえ、国内チップは性能向上と市場浸透が今後の課題とされる。一方で「世界のAI計算需要が逼迫し、中国市場の需要喚起が不可欠」という見方もあり、制限緩和は需給バランスの変化を暗示するとの指摘もある。国内GPUへの期待はむしろ高まっており、米中AI覇権の力学が改めて市場に大きな波紋を広げている。

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