AIバブル論再燃、OpenAI帝国は崩壊への道を歩むのか?

AI(人工知能)バブル論が再び台頭している。空売りファンドが米半導体大手のNVIDIA(エヌビディア)やPalantir(パランティア)などの人気AI銘柄を標的とし、大手クラウド企業の設備投資が過去最高を更新する中で、「支出が多すぎるが、利益は少なすぎる(too much spend, too little benefit)」との批判が絶えない。その中心にいるのが、大規模言語モデル(LLM)の旗手である米AI大手OpenAIだ。
事実、この2年間で株価が急騰したAI関連企業の多くは、計算能力や電力、データセンターなど、AIインフラを提供する企業だ。そして今や、彼らの命運はOpenAIと密接に結びついている。
公開情報によれば、OpenAIは2025年に入ってから、米半導体大手、Advanced Micro Devices(AMD、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)、NVIDIA(エヌビディア)、Oracle(オラクル)、CoreWeave(コアウィーブ)などと総額約1兆ドル(約154兆6800億円)規模の契約を締結し、AIモデル運用に必要な計算リソースを確保している。これら企業の利害は、もはやOpenAIの収益性と直結している。
NVIDIAは算力提供と同時に1000億ドルを投資、AMDはチップ供給と引き換えに出資を引き受け、CoreWeaveは専用クラウドを構築、Oracleやソフトバンクはデータセンター整備に参加する。
ChatGPTの売上高100億ドル
OpenAIが27年にもIPO(新規株式公開)を計画しているとの報道も飛び交う。生成AIサービス「ChatGPT」のユーザー数は3年で10億人に迫り、今年のサブスクリプション売上高は約100億ドルに達する見通しだ。
しかし、100億ドルの年収で1兆ドルの企業価値をどう支えるのかという疑問が浮かぶ。もしOpenAIの収益モデルが持続できなければ、膨大な資本支出を抱えるAIエコシステム全体が崩れる可能性もある。
なお、22年末にChatGPTが登場して以来、25年9月までの米株式市場の時価総額は21兆ドルも増加し、このうち10社が55%を占めた。AIはまさに米国市場の成長エンジンとなっている。
「暴力的な規模化」
米国のジャーナリスト、Karen Hao(カレン・ハオ)氏は25年5月出版の著書『AI帝国(Empire of AI):サム・アルトマンのOpenAIの夢と悪夢』で、AI競争を牽引するOpenAIと、それが人類にもたらす影響を深く掘り下げた。OpenAIの手法は「暴力的な規模化」であり、膨大な資源を注ぎ込む力技のアプローチだと批判し、「すべての帝国は崩壊する。なぜなら、それらは搾取と収奪の論理に基づいており、永続できない構造だからだ」と指摘している。
当初、効率重視のAI研究者からは冷笑されたが、OpenAIの成功によって風向きは一変。今では多くの企業が同様の「規模勝負」に参戦し、シリコンバレーは空前の計算力拡大競争に突入した。
モルガン・スタンレーの推計では、世界の主要クラウド企業(CSP)の26年の設備投資は6200億ドルに達し、25~26年の合計は1兆ドルを突破する見込みだ。Google(グーグル)Cloud、Microsoft(マイクロソフト)Azure、Amazon(アマゾン)AWSなどがOpenAIのLLMを支える形で巨額の支出を続けている。
この支出競争は、Meta(メタ、旧Facebook)などの巨額債券発行にも波及。Metaは過去最大となる300億ドルの社債を発行し、1250億ドル超の注文を集めた。
株式市場では懸念
しかし、「支出=将来の利益」という構図に疑問の声が高まり、株式市場では不安が漂い始めている。
OpenAIは26年下半期の上場申請、翌27年のIPOを視野に入れている。想定時価総額は約1兆ドル、調達額は600億ドルに達する可能性がある。
10月にはマイクロソフトと新たな契約を締結し、OpenAI Group PBC(公共利益会社)を設立。マイクロソフトは32.5%の持ち株を維持しつつ、今後2500億ドル分のAzureクラウドを提供する見返りに、優先契約権を放棄した。また、オラクルとの3000億ドル規模の契約、NVIDIAとの1000億ドル規模の投資、AMDとの6GW GPU供給協定、Broadcom(ブロードコム)との10GW AIチップ提携など、OpenAI関連の巨額取引が次々と明らかになっている。
だが、年収100億ドル規模の企業がこれら1兆ドル相当の契約をどう履行するのか疑念も強い。特にオラクルは年商600億ドルに対して3000億ドルの契約を結んだとされ、市場ではリスクを懸念する声が広がっている。
技術革新とバブル投機
歴史的に、技術革新には必ずバブルが伴う。1825年から2000年の間に人類が生み出した偉大な51の発明のうち、37が投機バブルを経験したという。鉄道も電灯も、初期投資家の期待を裏切りながら、最終的に社会基盤となった。
UBSの最新レポートでは、「AIが生み出した収益は期待外れ」と指摘。主要AI企業の年間総収入は約500億ドルにとどまり、今後3年間で見込まれるデータセンター投資(2兆9000ドル)のわずか2%にすぎない。
MITの研究でも、生成AI投資を行った組織の95%が「収益ゼロ」と回答。多くの企業がAIを“おもちゃ段階”で止めており、実用化までの距離は依然として遠い。
懸念が広がる一方で、投資家は依然としてAI関連株を買い増している。ゴールドマン・サックスのアナリストは「主要テック7社はいずれも強力なキャッシュフローを維持しており、インターネットバブル期とは異なる」としつつも、「AIはまだバブル形成の初期段階にある」と述べる。
一方、セコイア・キャピタルのデビッド・カーン氏は「データセンター投資を正当化できるのはAGI(汎用人工知能)の実現しかない」と指摘し、「計算力が過剰になれば、AIアプリ企業のコストが下がり、利益率が上がる」と分析。AIバブルの波に乗るには、単なるハードではなく、AIを“使いこなす側”の企業を見極めることが鍵となる。



