オランダ政府のNexperiaの強制接収、世界の自動車業界で半導体不足に影響

オランダ政府が、中国電子機器大手の聞泰科技(WINGTECH、湖北省黄石市)のオランダの完全子会社で半導体メーカー、Nexperia(安世半導体、ネクスペリア)を強制接収した問題が波紋を広げている。中国・オランダの2国間関係に深刻な影響を及ぼすだけでなく、世界の自動車産業もパワー半導体不足の余波に揺れている。

米ブルームバーグの10月30日付報道によると、聞泰科技は同日、「ネクスペリアが中国からの輸出を再開するためのいかなる合意においては、前最高経営責任者(CEO)の職務復帰が含まれなければならない」と表明した。報道は、聞泰科技がオランダ側との交渉において「高いハードル」を設けたことを意味すると指摘している。

聞泰科技の広報担当者は、「親会社として、オランダ政府に対し立場の見直しと、自社に対する『技術窃取』という虚偽の指摘を撤回するよう求めている」と強調した。また、「オランダ側は前CEOを“標的(soft target)”に仕立て上げ、彼の解任をあたかも勝利のように演出した」と批判。さらに「完全な支配権と所有権の回復こそが、緊張を和らげ安定を取り戻す唯一の道である」と述べた。

聞泰科技はまた、「オランダ子会社との間に不正行為は一切存在しない」と主張。「技術移転や技術窃取、営業秘密の漏洩といった事実はなく、チップ製造における“技術共有”は業界の一般的な慣行だ」と説明。さらに「聞泰科技はネクスペリアの合法的な持株親会社であり、ネクスペリアは完全子会社である。子会社から技術を盗む理由など存在しない」と指摘した。

一方、オランダ経済省は聞泰科技の声明を退け、「Nexperia前CEOは企業に対して深刻な脅威をもたらした」と主張。今回の接収措置は「国家安全保障法に基づく正当な対応」であり、CEOの解任も「独立調査の結果だ」と釈明した。

オランダ政府は徹底

オランダ政府は9月30日、「国家安全保障」を理由に、ネクスペリアが1年間にわたり資産や知的財産、事業、人事などを変更できないよう命令。翌10月12日にこの措置を公表した。

その前日である9月29日、事実上の禁輸措置であるエンティティ-リストの規則を修正し、リストに掲載されている企業が50%以上所有する子会社も禁輸の対象とした。聞泰科技は同リストに収載されている。

10月14日に公開されたオランダ裁判所の文書によると、米国とオランダは米国の同新ルールをめぐり協議を行っており、米側はネクスペリアの中国人CEOの交代やガバナンス変更を求めていたという。

世界的なパワー半導体不足に影響

現在、ネクスペリアはドイツと英国の工場で半導体ウエハーを製造し、中国で封止・検査を行っている。最終製品の約8割が中国で完成している。

しかしオランダ政府の介入後、同社の東莞工場では出荷制限が始まり、「4勤3休」体制へ移行。聞泰科技は国内供給網の再編を急ぐが、技術移転や顧客認証などの課題が障壁となっている。ネクスペリアは輸出規制の免除を申請中だが、出荷再開の見通しは立っていない。

英紙『フィナンシャル・タイムズ』によると、オランダ政府による経営権奪取の結果、ネクスペリアのオランダ・ドイツ・英国の拠点では数百人の雇用が危機に瀕している。主要社員の退職や操業停止が相次ぎ、産業活動に深刻な影響が出ているという。

欧州自動車工業会(ACEA)は10月29日、「ネクスペリアのチップ供給不足が悪化しており、欧州自動車メーカーが生産停止に追い込まれる可能性がある」と警告した。

また、独メディアは供給網リスク分析会社Prewaveの報告を引用し、「欧州の航空宇宙・防衛関連企業はすべて、中国製のネクスペリアチップを使用している」と報じた。調査対象となった欧州主要107社のうち、86%が同社の中国生産拠点から調達しており、「欧州産業の大部分が潜在的リスクに直面している」と結論づけた。

中国政府が輸出を禁止

10月15日の中国外交部の定例会見では、AFP記者が「オランダ政府がネクスペリアを接収した後、中国が同社の輸出を禁止したとの報道は事実か」と質問。林剣報道官は「詳細は当局に確認を」と前置きした上で、「中国は国家安全保障の概念を濫用し、特定の国の企業を差別的に扱う行為に一貫して反対する」と述べた。

また、「関係国は市場原則を順守し、経済・貿易問題を政治化すべきではない。中国は自国企業の正当な権益を断固として守る」と強調した。

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