華為の機密盗む、半導体ベンチャー企業の元社員らに重い判決

上海市第三中級人民法院はこのほど、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ、広東省深セン市)の商業機密を侵害したとして尊湃通信科技(南京)の米国籍の首謀者・張琨(チャン・クン)に対し懲役6年および300万元(約6150万円)の罰金、他の13人にも総額1050万元の罰金を科した。うち5人が実刑(懲役3年~6年)の判決が言い渡された。

観察者網などが伝えた。程玲弁護士は同事件について、「被害額が大きく、刑罰が重く、関与者が多い」とし、「組織的かつ計画的に行われた悪質な侵害行為だった」と指摘。国家が技術革新を重視する今、司法機関は“近道”としての不正行為に対して厳格な姿勢を示していると述べた。

有望ベンチャーの裏に潜む不正

尊湃は2021年3月に設立された新興半導体企業で、Wi-Fi 6チップの開発を手掛けていた。創業者の張琨は、北京大学電子工学部出身で、米半導体大手のQualcomm(クアルコム)に勤務後、2011年から約10年間にわたり華為の半導体部門・海思(HiSilicon)で技術ディレクターを務めた人物だ。

設立当初から、張氏の豊富なキャリアを背景に、尊湃は南京、上海、深圳に開発拠点を構え、わずか1年余りで複数の大手投資ファンドから数億元規模の資金を調達した。その出資元には、FutureX、小米(シャオミ)関連企業、高榕資本など、著名なベンチャーキャピタルも名を連ねた。

だが、捜査の結果、尊湃は華為海思からの違法な技術流用によって成り立っていたことが判明。張氏らは、海思の現職技術者を高給・株式報酬で勧誘し、離職前に情報を摘出させていた。これには手書きの写し取り、スクリーンショットなどを用いて、海思のチップ設計に関する重要情報を違法に取得していたとされる。

警察は、侵害されたチップ技術に含まれる40の技術項目が、華為の機密情報と90%以上一致しており、実質的に同一であると認定。尊湃の違法行為によって、華為はその商業秘密を失う甚大な被害を受けたとされた。

企業と投資家への深刻な警鐘

この事件を受けて、尊湃は「経営異常」「被執行人」「高額消費制限」といった行政処分を受け、事実上の活動停止状態に陥った。数十億円規模の投資を行ったベンチャーキャピタル各社も、重大な損失を被る可能性が高まっている。

事件は、地方政府や資本が「チップブーム」に乗り、十分な実態調査を行わずに開発プロジェクトを急進させた結果ともいえる。専門家は、技術革新は経済発展の法則に従うものであり、「成果主義の近道」は存在しないと警鐘を鳴らしている。

知財保護の重要性、再確認される

同事件はまた、企業の知的財産保護体制の再構築を促す契機となった。弁護士の程玲氏は、「華為のような大企業でも、離職者による情報漏洩は完全には防げない」と述べ、企業側が自社技術の特性に応じた実効性のある管理制度を整備する必要があると強調する。

一方、国家レベルでも知的財産保護は強化されている。ここ数年で、特許法、著作権法、商標法などの改正が進み、刑事罰の強化や行政による前段階での取り締まりが行われている。特に25年4月には、最高人民法院と最高人民検察院が新たな司法解釈を発表し、犯罪構成要件のハードルを下げ、罰金の上限も引き上げられた。

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