エヌビディア、中国向け新型AIチップを9月にも発売へ 

ファンCEOが再び訪中予定

英紙フィナンシャル・タイムズの報道によると、米半導体大手NVIDIA(エヌビディア)は、対中輸出規制に対応した新たなAI(人工知能)チップを最短で今年9月に発売する計画だ。加えて、Jen-Hsun Huang(ジェンスン・ファン)最高経営責任者(CEO)氏は来週、再び北京を訪問し、中国市場への継続的な関与を強調する予定だ。

この新型チップは、同社の最新プロセッサ「Blackwell RTX Pro 6000」の改良版で、高速なデータ転送を可能にする高帯域幅メモリー(HBM)や、先進的なインターコネクト機能である「NVLink」など、一部の先端技術を除去して米国の対中輸出規制に準拠する設計となっている。

関係筋によれば、ファン氏は今月16日に北京市で開催される「中国国際サプライチェーン促進博覧会」に出席し、中国政府関係者との会談も予定されている。訪問の詳細はまだ中国側の最終承認を待っている段階とのこと。

エヌビディアは今年に入って米国政府による規制強化の影響を大きく受け、株価が下落する局面もあった。米中間の地政学的緊張が高まる中、同社は中国という重要市場での地位を維持するため、外交的な対応を強化している。

2022年10月にバイデン前政権が対中輸出規制を開始して以降、エヌビディアは中国市場向けに機能を制限した「H20チップ」を開発し、23年2月から予約を開始した。しかし、今年4月、トランプ政権の影響でH20チップの輸出には新たな許可が必要とされ、この規制は無期限に継続されると通知された。この変更により、同社はH20関連で約55億米ドル(約8042億6500万円)相当の在庫や調達契約への影響を受ける可能性があると説明している。

その後、米国による圧力の高まりを受け、エヌビディアはH20チップのさらなるダウングレード版を中国市場に投入する計画を進めており、今年7月には一部の主要顧客に通知済みだという。

今回フィナンシャル・タイムズが伝えた新型チップは、最短で9月の発売が見込まれており、エヌビディアはトランプ政権に対し、規制違反とならない明確な保証を求めている。このチップの最終仕様は、米国政府との協議次第で変更される可能性がある。

報道によれば、このチップの市場需要はH20チップよりも控えめとみられるが、すでに一部の中国顧客がサンプルをテストしており、大量購入を検討中だという。性能面では中国の競合製品に劣るものの、エヌビディア独自のCUDAソフトウェアエコシステムを他社製に切り替えるには高いコストがかかるため、現状では同社製品が選ばれやすい状況にある。

しかし、中国のAI関連大手企業、阿里巴巴集団(アリババ・グループ)、北京字節跳動科技(バイトダンス)、騰訊(テンセント)などは米国製品への依存リスクを意識し、国産代替技術の導入を進めている。エヌビディアにとっては、新チップを安定供給するために在庫を積み増す必要があるが、米国の政策変動が続けば財務リスクの拡大につながる。

エヌビディアの年次報告書によれば、中国は米国、シンガポールに次ぐ第4の売上市場であり、24年度の中国市場における売上は前年比66%増の171億800万米ドルと過去最高を記録。同社の25年度売上のうち、米国外市場が53%を占める。

ファン氏はこれまで一貫して対中輸出規制に反対の立場を取ってきた。今年3月には、「AI研究者の約半数は中国出身であり、多くが米国の研究機関に所属している」と指摘。4月の訪中時には、規制に準拠した製品の最適化を進めつつ、中国市場への支援を継続すると表明した。

さらに5月には、「対中半導体輸出規制は米企業に甚大な損失をもたらし、効果は限定的だ」とし、「AI技術の拡散を制限する考えは誤っており、米企業が中国市場に不在となれば、中国技術が世界を席巻する」と警鐘を鳴らした。

Tags: , , , , , , , ,

関連記事