中国の人工ダイヤモンド微粉末の輸出規制、米国で深刻な供給不足に

中国は11月から、半導体製造や精密加工などの高度技術分野で広く使用されている平均粒径50マイクロメートル以下の人工ダイヤモンド微粉末を輸出規制対象に追加した。米国が使用する半導体製造向けのダイヤモンド原料の70%以上は中国から輸入されており、米国の半導体製造の“命綱”を直接握ることになっている。

ダイヤモンドは圧倒的な硬度を持つため、近代以降は産業用途が大幅に拡大。切削工具、研磨材、金属加工、石材切断など、工業分野では「工業の歯」と呼ばれている。さらに光・電磁・熱などの分野でも重要な役割を果たし、「材料の王」と称される。

特に半導体では不可欠な戦略素材だ。ダイヤモンドの熱伝導率は約2000W/(m·K)と、銅の5倍、シリコンの13倍。これは5ナノメートル(nm)以下の先端半導体で深刻化する“発熱問題”を解決する材料として注目されている。

EUV(極端紫外線)リソグラフィー(露光)装置では、ダイヤモンドは高い耐電圧と光透過性を持つため、レーザー光学部品の保護層として欠かせない。例えば、半導体受託生産(ファウンドリー)世界大手の台湾積体電路製造(TSMC、台積電)の3nm工程では、ウエハー研磨工程の90%がダイヤモンド微粉に依存している。

第二次大戦後、工業・航空・軍需の発展により各国で需要が急増。これに応えるため、1950年代に米英独などが高温高圧法(HPHT)で人工ダイヤモンドを工業化した。しかし21世紀に入り、勢力図は大きく変わった。中国は生産量・技術力・産業チェーンで他国を圧倒し、人工ダイヤモンド分野で世界の中心となっている。

米国の国内生産量は世界の3%のみ

一方、米国は深刻な供給不足に直面している。国内生産量は世界の約3%にすぎず、需要に全く追いつかない。自国で増産しようにも技術・設備・コストの壁が高く、短期で代替サプライチェーンを構築するのは不可能で、中国のダイヤモンドに依存せざるを得ない状況だ。

河南省の力量鉆石股フンは2024年、世界最大となる156.47カラットの人工ダイヤ原石を発表し、世界から注目を集めた。同省では1990年代以降、HPHT法・CVD法が成熟。河南・山東を中心に巨大な超硬材料産業クラスターが形成され、特に河南東部の柘城県は世界最大の人工ダイヤ産地へと成長している。全国の80%、ダイヤモンド微粉の年産量は100億カラットに達している。米国の半導体産業に使用されるダイヤも、この小さな柘城県から供給されている。

今回の人工ダイヤの輸出管制は、中国が初めて取った戦略ではない。これに先立ち、レアアース・ガリウム・ゲルマニウムなどでも輸出規制を実施し、米国に供給リスクを突きつけた。今回のダイヤモンド規制は特に“核心を突く一撃”となっているとみられる。

中国は全面禁輸ではなく、審査制(ライセンス制)を選択。民間用途の流通は維持しつつ、半導体製造・軍需用途のダイヤ微粉(50μm以下)のみを精密に制限することで、米国の政策に対して圧力をかけている。

これにより、米国のF-35戦闘機エンジン部品の研削材、高度半導体製造工程に使用する研磨用ダイヤといった軍事・先端技術の急所を正確に押さえることができる。この“点の制御”が、中国の資源安全保障と国家戦略を支える強力なカードとなっている。

Tags: , , , , ,

関連記事