フィジカルAI普及で中国で減速機市場の成長期待高まる

フィジカルAI(物理世界で動作する人工知能)への関心が高まるなか、中国でロボットの中核部品である減速機市場の成長期待が強まっている。
フィジカルAIは、AIを現実の物理世界で認識・推論・行動させる技術だ。このフィジカルAIを巡っては、10月21日、米NVIDIA(エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)がベルリンで開催された「GTC」で「次の波はフィジカルAIだ」と述べ、ロボット開発プラットフォーム「Isaac」の拡充を発表した。翌22日には、中国・杭州で「2026世界フィジカルAI大会暨宇樹科技パートナー・エコシステム大会」が開かれ、宇樹科技(ユニツリー・ロボティクス)の創業者、王興興氏が講演で、GPT-6の発表を受けて「フィジカルAIがブレークスルーを迎える兆しが見えてきた」との認識を示した。
中国情報通信研究院(CAICT)が公表した「具身知能発展報告(2026年)」では、フィジカルAIを、物理法則を認識、推論、生成、行動の全過程に組み込むことで、AIの現実世界における適応性、信頼性、実装可能性を高める技術と定義している。
株式市場でも関連銘柄が上昇している。10月26日にはフィジカルAI関連株が引き続き堅調に推移し、宇樹科技の株価は7.69%上昇した。直近7取引日の累計上昇率は65.1%に達した。
証券会社の調査活動も急増している。21世紀経済報道の集計によると、10月19~25日の1週間に、フィジカルAIおよび人型ロボットに関する電話会議が少なくとも18回開催された。対象は16の証券会社の研究部門に及び、このうち14回は10月24、25日の2日間に集中した。
華福証券は業界レポートで、フィジカルAIの恩恵を受ける分野を2つのサプライチェーンに分類した。1つはデータ収集関連で、ロボット本体や特定用途向けのシステム、センサー、データ収集サービスなど。もう1つは米テスラを中心とする部品供給網で、ボールねじ、減速機、軸受などが含まれる。
減速機産業では、実需の拡大を裏付ける動きも出ている。テスラは10月22日、米カリフォルニア州フリーモント工場の生産ラインで、人型ロボット「Optimus」の量産を開始したと発表した。2027年末には外部顧客への納入を開始する可能性がある。
政策面では、中国商務部など9部門が10月19日、商業・貿易分野への具身知能技術の導入を促進する方針を発表した。工業情報化部と国務院国有資産監督管理委員会も、それに先立ち、人型ロボットおよび具身知能の実環境訓練に関する特別行動を開始している。
生産・出荷統計も市場拡大を示している。中国国家統計局によると、2026年1~9月の中国のロボット用減速機生産量は前年同期比44.4%増加した。調査会社IDCによると、2026年上半期の世界の人型ロボット出荷台数は約2万5,000台となり、前年同期比432.1%増加した。
減速機はロボットの関節を駆動する中核的な伝達部品であり、関節の動作精度や負荷能力を左右する。主な種類は、波動歯車を用いるハーモニック減速機、RV減速機、遊星減速機の3つ。人型ロボット1台には通常、25~30個の精密減速機が搭載される。フィジカルAIの普及によってロボットの導入が進めば、駆動系の重要部品である減速機の需要拡大が見込まれる。
開源証券は、フィジカルAIがプログラミング分野に続く、極めて大きな需要市場になる可能性があると指摘する。ロボットの知能システムを本体とは別に価格設定できるようになれば、具身知能企業の収益構造は、一度きりのハードウエア販売から、ロボットのライフサイクル全体にわたる継続的な収入へと変化する可能性がある。これに伴い、企業価値の評価基準も製造業型からプラットフォーム型へ移行するとみている。
市場規模について、華鑫証券は調査レポートで、中国のロボット向け精密減速機市場が2025年の約35億元から、2030年には231億元に拡大すると試算した。年平均成長率(CAGR)は45.9%に達する見通しだ。人型ロボット向けでは、今後もハーモニック減速機や遊星減速機、あるいは両者を組み合わせた方式が主流になると予測している。
中国メーカーによる国産化の進展も注目される。国泰海通証券の分析によると、中国のハーモニック減速機市場における国産品のシェアは2017年の16.41%から、2021年には55.15%へ上昇し、初めて外資系メーカーのシェアを上回った。2024年には75.11%まで拡大している。緑的諧波(グリーン・ハーモニック)に代表される中国メーカーは、国内市場での代替を進めるとともに、世界市場でのシェア拡大を加速させている。
フィジカルAIを巡る投資がテーマ先行の段階から実際の業績拡大へと移行するかどうかが、今後の焦点となる。人型ロボットの量産や産業用途への導入が進めば、減速機メーカーにとっても需要拡大の追い風となりそうだ。




