米で人気の家庭用AI二足歩行ロボット「Microduck」、中国サプライチェーンが製造

(Pollen Roboticsのウェブサイトより)

AI・機械学習モデルやデータセット、デモアプリを共有・共同開発できる世界最大のオープンソースAIプラットフォーム「Hugging Face」傘下のロボット企業Pollen Roboticsは8月27日、二足歩行ロボット「Microduck」(通称「マシンダック」)を発売した。主力プロセッサーには、中国メーカーの瑞芯微(Rockchip)が手掛ける「RK3566」を採用するなど中国サプライチェーンで製造したのが特徴で、399ドル(約6万3321円)という低価格を実現。予約開始から24時間以内に受注額が260万ドルを突破するなど、完売した。

Microduckの販売の勢いは、予想を大きく上回った。中国メディアの新快報によると、予約開始から6時間で受注額は100万ドルを超え、24時間で累計260万ドルを突破。台数に換算すると6500台を超えるという。一方、海報新聞や大衆網が引用したデータでは、24時間の受注額は260万ドル超、台数は5000台超とされている。

Hugging Faceの共同創業者兼チーフサイエンティスト、トーマス・ウルフ氏がMicroduckに設定した販売目標は累計2万台だ。これは、史上最も売れたロボット製品でも販売台数が2万台前後にとどまるためだという。

Hugging FaceのCEO、クレム・ドランゲ氏は発売当日、Microduckについて「399ドルのオープンソースロボットで、強化学習を使って新しい芸を教えられる」と説明。その後、「オープンソースで手頃な価格のロボットの時代へようこそ」と強調した。

掃除ロボットではない、具身知能版の「Raspberry Pi」

掃除ロボットなどのサービス型製品とは異なり、Microduckの中核的な位置付けは、AI開発者向けのオープンソース型「具身知能(Embodied AI)」開発プラットフォームだ。業界では、具身知能分野における「Raspberry Piの瞬間」とも評されている。

Microduckは掃除も皿洗いもできない。くちばし部分は小型のグリッパーになっており、靴下やマーカーなど軽量な物体をくわえて持ち上げる程度だ。

その一方で、開発者は自らプログラムを書き、必要な機能を実装できる。出荷時には、歩行、立ち座り、しゃがむ、脚を蹴り上げる、物体をつかむ、ローラースケート、転倒からの自力復帰という7種類の基本動作があらかじめ搭載されている。ユーザーはこれらをベースに、さまざまな動作を開発できる。

ハードウエア面では、高さ25センチの筐体に15個のサーボモーターを搭載。モーターは両脚、首、頭部に配置されている。さらに、広角カメラ、小型LiDAR、2基のIMU(慣性計測ユニット)、マイク、スピーカー、NFCタグ認識機能などを備え、Wi-Fi、Bluetooth、NFCによる近距離通信にも対応する。

主力プロセッサーには、中国メーカーの瑞芯微(Rockchip)が手掛ける「RK3566」を採用。50Hzの制御ループを実行し、15個のサーボモーターを駆動するとともに、カメラや無線通信などの各モジュールを管理する。

ソフトウエア面では、SDK、MuJoCoシミュレーション環境、強化学習のトレーニング環境一式をApache-2.0ライセンスでオープンソース化している。

開発者はシミュレーター上で新たな制御戦略を学習させ、その成果をONNX形式で出力して機体に搭載されたチップ上に実装できる。また、学習成果をHugging Face Hubにアップロードし、世界中の開発者と共有することも可能だ。

中国サプライチェーンがコストを圧縮、瑞芯微株はストップ高

Microduckを399ドルという価格で実現した最大の要因の一つが、中国のハードウエア・サプライチェーンだ。

Microduckの完成品の製造は、広東省深セン市を拠点とするハードウエア企業、矽递科技(Seeed Studio)が担う。同社はこれまでもHugging Faceの卓上ロボット「Reachy Mini」の受託製造を手掛けており、同製品は発売から5日間で売上高100万ドルを突破。米半導体大手、NVIDIA(エヌビディア)のCES展示ブースにも登場した。

海外のオープンソースロボットプロジェクトでは、長年にわたり2つの大きな課題があった。少量生産では金型の製作コストが高いこと、そしてサーボモーターやセンサーなどの調達コストが高止まりしていることだ。これに対し、中国のハードウエア・サプライチェーンを活用することで、「海外で設計をオープンソース化し、中国のサプライチェーンで製造する」という分業モデルが可能になる。結果として、部品表(BOM)ベースのコストを、海外での国内生産では実現が難しい水準まで引き下げられる。

報道によると、Microduckに搭載される15個のサーボモーターには、韓国のロボットメーカー、ROBOTIS製「XL330」が採用されている。モーター自体は韓国製だが、完成品の製造、主力プロセッサー(瑞芯微RK3566)、構造部品の統合など、製品の中核部分は中国のサプライチェーンに大きく依存している。

市場関係者からは、瑞芯微のRK3566は2020年に発売された製品であるにもかかわらず、Hugging Faceが世界の開発者エコシステム向けの公式ハードウエアプラットフォームとして採用したことは、中国製エッジAIチップがHugging Face主導のグローバルなロボット開発者エコシステムに本格的に入り込んだことを意味するとの見方も出ている。

中国の株式市場にも波及

8月31日の中国A株市場では、Microduckの主力チップを供給する瑞芯微がストップ高となり、終値は1株194.59元。時価総額は823億元を突破した。

エッジAI関連銘柄にも買いが波及し、美格智能、博通集成もストップ高となったほか、全志科技は9.39%高、楽鑫科技は8.47%高、広和通は6.14%高となった。9月1日には瑞芯微が取引開始後も大幅高となった。高さ25センチの小さな「マシンダック」が、わずか24時間でエッジAI関連株を一気に沸騰させた格好だ。

NVIDIAによるHugging Face買収、129億ドルの背景

Microduckが発売されたタイミングも注目を集めている。予約開始の前日には、複数のメディアが、NVIDIAが約129億ドルでHugging Faceを買収することで合意したと報じた。

NVIDIAにとって、オープンソースへの全面的な取り組みは、GPUを支えるAIエコシステムを拡大する狙いがある。オープンソースモデルが普及すればするほど、開発者や企業による計算資源への需要も広がるためだ。

そしてHugging Faceは現在、そのオープンソースのDNAを、AIモデルのリポジトリから「物理的な身体」を持つロボットへと広げようとしている。Microduckの登場は、NVIDIAによるHugging Face買収のロジックを象徴する存在ともいえる。

Pollen Robotics

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