中国政府、「エンボディドAI」を政府活動報告に再び明記

中国政府は、2026年の政府活動報告で、「具身知能(エンボディドAI)」が将来産業の一つとして明確に盛り込んだ。未来エネルギー、量子技術、ブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)、6G(第6世代移動通信技術)などの最先端分野と並び、重点的に育成すべき産業として位置付けられている。

政府活動報告では、将来産業への投資拡大とリスク分担の仕組みを構築し、未来エネルギー、量子技術、具身知能、BCI、6Gなどの分野の発展を促進する方針が示された。

この表現はAI(人工知能)産業界で大きな議論を呼んでいる。複数のエンボディドAI関連企業は、毎日経済新聞の取材に対し、これは国家レベルでこの技術方向が正式に認められたことを意味するとともに、将来産業政策が今後さらに強化される重要なシグナルだと指摘した。産業の視点から見ると、この動きは具身知能が研究室段階や概念実証の段階から、実際の応用場面や大規模利用へと徐々に移行しつつあることを示している。

一方で、研究開発(R&D)投資、データ基盤、業界標準などの重要課題を巡り、産業界は政策面でのさらなる制度的支援にも期待を寄せている。技術探索に伴うリスクを低減し、産業の協調的発展を促進するためだ。

企業各社は、エンボディドAIが政府活動報告に盛り込まれたこと自体が強い政策シグナルであり、この技術が単なる研究段階から国家戦略の視野に入ったことを意味すると指摘する。

エンボディドAI(具身知能)ロボットの開発を手掛ける北京星動紀元科技(ROBOTERA、北京市)は、「エンボディドAIを将来産業として育成する対象に加えたことは、この技術の価値と産業潜在力に対する国家レベルの高い評価を示すものであり、業界が発展の障壁を突破し、大規模実装を実現するための方向性を示すものだ」と述べる。同社は、エンボディドAIをAIが「認識」から「行動」へ進むための重要な突破口であり、AIと実体経済を深く結び付ける中核的な技術と位置付けている。特に製造、物流、サービスなどの分野で大きな可能性があるという。

原力霊機(Dexmal、重慶市)もこの政策を、具身知能が研究室段階から実際の社会シーンへ進む転機となるシグナルと受け止めている。今後、より多くの実体シーンが開放され、ロボットが実際の商業価値や明確なROI(投資収益率)を生み出す環境が整うことで、業界全体が概念実証から大規模応用へと加速すると期待している。

中国の画像認識大手、商湯科技(SenseTime、香港)傘下の大暁機械人も同様の見方を示している。同社は、「この政策シグナルは業界にとって大きな追い風であり、具身知能は短期的なブームではなく、3C(コンピューター、通信、消費者向け電子機器)産業や自動車産業を上回る数十兆元規模の巨大市場になる可能性がある」と指摘。過去1〜2年は多くの企業がデモ段階にあり、技術ルートの探索やバブルも見られたが、技術革新と資本の集中が進むことで、今後数年は大規模応用へ向かう重要な時間帯になる可能性があるという。

リスク分担の仕組み

政府活動報告の中で、もう一つ業界の注目を集めた表現が「将来産業への投資拡大とリスク分担の仕組みを構築する」という部分だ。具身知能企業の多くは、これが業界の核心的な課題を突いたものだとみている。

星動紀元は、エンボディドAIは研究開発投資が大きく、技術更新も速い一方で商業化までの期間が長く、企業単独では開発と実装のコストやリスクを負担するのが難しいと指摘する。このため政策レベルでの制度設計により、資本や人材などの優良資源をこの分野に集めることができれば、企業の試行錯誤コストを大幅に下げ、技術突破と成果の実用化を加速できると期待している。

原力霊機は、エンボディドAIは典型的な「長周期・高投資・重資産」型の産業であり、公共インフラの支援が不可欠だと指摘する。将来的には「エンボディドAIインフラ補助」や「実際の応用シーンの共同構築」といった政策が実施されることを期待している。例えば、オープンソースフレームワークや実機評価プラットフォームなどの基盤に資金支援を行うことで、業界全体の研究開発のハードルを下げることができる。また、実体企業が先行的な応用シーンを開放し、試行錯誤のコストを分担することで、データ循環の仕組みを確立する必要があると提案している。

大暁機械人は、基盤技術エコシステムの構築に重点を置いている。同社によれば、多くの資本やスタートアップは生き残りのため、短期間で成果が出るハードウェア組み立てや外部委託型の応用に走りがちで、物理世界に対応する汎用AIモデルのような基盤技術には取り組みたがらない。試行錯誤のコストが高すぎるためだ。そのため同社は、物理的因果関係を理解する汎用AI基盤の構築やオープンソースエコシステムの形成を支援する資金誘導を提案している。共通技術プラットフォームや高品質な計算資源への補助によって企業リスクを分担し、長期投資を行う「忍耐強い資本」を呼び込むことができれば、企業は協調的な技術革新により多くの力を注げるようになるという。

成長加速には課題

もっとも、政策シグナルや資本の関心が高まっているとはいえ、現場の企業はエンボディドAIが本格的に爆発的成長を迎えるまでには依然として重要な課題が残っているとみている。

星動紀元は、エンボディドAIは物理世界に根差し実体経済にサービスを提供する産業であり、競争力の核心はハードテクノロジーの突破にあると指摘する。ロボットを「ステージ上で動く存在」から「工場で働く存在」へと転換させることが重要だという。具身知能の本質は、AIをデジタル世界から物理世界へと移し、現実のタスクを遂行し、実体価値を創出することにあり、単なるアルゴリズムのデモンストレーションでもなければ、単純なハードウェアの組み立てでもない。

同社は、業界全体がハードテクノロジーの突破に集中し、実体経済への応用を軸に据え、エンボディドAIの「脳」、安定したハードウェア、巧みな操作能力などの面で継続的に技術革新を進める必要があると強調する。産業の高度化に伴う実際の問題に向き合うことで初めて、具身知能は新しい生産力を支える将来産業として成長できるという。

原力霊機は業界標準の問題に注目している。現在は「動画デモ」が氾濫しているが、実際の環境で長時間のタスクや汎用的な作業を行うと性能が発揮できないケースが多いという。統一された実機評価基準や標準化された評価体系がなければ、顧客は信頼して導入できないと指摘する。

データ不足がボトルネック

一方、大暁機械人は「データ問題」を業界最大のボトルネックとみている。同社によると、現在はロボット本体やアルゴリズムを開発する企業が多数存在するものの、物理世界におけるインタラクションデータが圧倒的に不足しているという。

現在主流となっているデータ収集方法は、人間がロボットを遠隔操作して実機データを取得するという極めて非効率な方式であり、業界全体を合わせても数十万時間程度に過ぎない。知能の飛躍的発展に必要とされる数千万〜数億時間のデータと比べれば、まさに焼け石に水だと指摘する。さらにこれらのデータは特定のハードウェアに強く依存しており、再利用が難しいという問題もある。

このため大暁機械人は、今後は「人間中心型」のデータ収集へと転換し、ハードウェアに依存しない汎用的な物理データ、力学や触覚情報を含むデータを集めるべきだと提案している。同時に、国家レベルまたは業界レベルで高品質データセットの共有と標準体系を構築し、共通のデータ収集実験環境を整備する必要があるとしている。そうした基盤が整ってこそ、具身知能は多様な産業を支える新しい生産力となり得ると強調している。

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