アリババ、AI検索とAIアシスタントを融合する「C計画」を始動

中国のテック大手の間で、再び「AI(人工知能)対話の覇権」をめぐる争いが激化している。中国IT大手、阿里巴巴集団(アリババ・グループ)傘下のAIアプリ「誇克(Quark)」が新たに「対話アシスタント」機能をひっそりと実装した。アプリのホーム画面では、AI検索バーの下に「検索」と「アシスタント」の2つのタブが明確に分かれており、ユーザーは通常の検索に加え、「深度検索」や「写真で問題を検索」といった機能を利用できるようになった。

この変更により、ユーザー体験が大きく変化する。従来のAI検索は一度の検索で完結しており、再度質問するには新しい検索を始める必要があったが、新たな「AI対話型検索」では、会話を続ける形で深掘りできるため、余計な操作を省くことができる。

海外ではすでに米Google(グーグル)とOpenAIの間で、AI対話をめぐる激しい競争が展開中だ。今年5月、グーグルは検索事業への脅威に対抗するため、チャットボット型の「AIモード」を検索エンジンに導入。一方、OpenAIは10月22日にAIブラウザ「ChatGPT Atlas」を発表し、グーグルの中核事業を直撃した。この発表を受け、Google株は一時4%超下落した。

中国市場でも競争は熾烈だ。IT桔子(IT Orange)のデータによると、中国ではAI検索・チャットボット型のAIGC(生成AI)製品が人気を集めており、トップ4のうち3つがAI検索関連となっている。特に「360AI検索」「訊飛智文」「百度(バイドゥ)AI伙伴」はそれぞれ40%前後の成長率を記録しており、検索と対話の融合が新たな情報入口として定着しつつある。

誇克にとって、AI対話を取り込むことで、ユーザーはアプリ内で情報検索から処理まで一貫して行えるようになり、滞在時間や利用頻度の向上が期待できる。ただし、AI対話の内容は必ずしも信頼性が高いとは限らず、出典の曖昧さが課題として残る。

今回の「対話アシスタント」導入は、アリババの「C計画(C Plan)」の一部にすぎない。この“C”は、ゲーム「パックマン(Pac-Man)」をもじり、動画投稿アプリ大手「TikTok(ティックトック)」を運営する北京字節跳動科技(バイトダンス)傘下の「豆包(Doubao)」を狙う意味が込められているという説もある。

実際、誇克と豆包はAIアプリ市場で激しく競い合っている。米投資会社A16zの「世界Top100生成AIアプリ」ランキングでは、誇克が9位、豆包が12位にランクイン。両アプリはAI検索、写真検索、AIライティング、翻訳など機能面でも共通点が多い。ただ、誇克はAI検索とAIアシスタントを統合する戦略を取るのに対し、豆包は独立したAIチャットアプリとして位置づけられている。今後、どちらがユーザーの支持を得るかは、AI対話をどれだけ実用的に活用できるかにかかっている。

「AI to C」戦略を加速

誇克の「対話アシスタント」機能は、アリババの「C計画」の第一歩だ。アリババは同時に、消費者向けAIデバイスとして「誇克AI眼鏡」を発表した。

この眼鏡はアリババ初の自社開発AIウェアラブルで、10月24日から電子商取引(EC)サイトの天猫(Tmall)公式ストアで予約販売を開始。高徳地図やAlipayの「視線決済」機能などを搭載し、会員向けの早期予約価格は3,699元からとなっている。

AI眼鏡は次世代の“物理的なAIインターフェース”として注目されており、各社が「身につけるAIアシスタント」としての実用化を目指している。誇克AI眼鏡は、アリババの消費者向けAI戦略(AI to C)の重要な柱となる製品だ。

AI分野の競争は、もはや基盤モデルの性能だけでは差別化できなくなっている。そこで各社は、技術と製品の融合を通じてユーザー体験の差を生み出そうとしている。アリババも、技術革新と実際の応用シナリオの統合を重視し、特に消費者向け市場において、より高い体験価値と個別対応を提供することを目指している。

実際、誇克は25年に入り次々とAI関連機能を導入している。3月には「AIスーパー検索バー」を搭載し、6月には「大学入試AI検索」や「志望校AI診断」を開始。7月には医療大モデル「主任医師級AIドクター」を発表した。

今回のAI眼鏡投入は、各社が同分野に注力するなかでの動きでもある。すでに小米(シャオミ)、百度、魅族(Meizu)、華為(ファーウェイ)などがAI眼鏡を展開中だ。価格面では、誇克AI眼鏡の早期販売価格は小米版(1999元)や米Meta(メタ)のRay-Banスマートグラス(約2143元)よりも高めに設定されている。

今後、誇克AI眼鏡が市場で支持を得るには、価格を上回るだけの機能や体験価値を示す必要がある。アリババが消費者向けAI市場に本格的に乗り出すなか、テック大手各社の競争はますます激しさを増していく見通しだ。

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