AI投資依存の米国経済、バブルの兆候も

米国の経済全体の6%に過ぎないAI(人工知能)などコンピューター・ソフトウェア分野の投資額が、経済の3分の2以上の成長を叩き出す新たなエンジンとなっている。だが、AIの商業化は想定以上に遅れ、初期投資の回収は見通せず、バブルの兆候も漂い始めている。
米国におけるAIを含むコンピューター・ソフトウェア分野の投資額はGDPの6%にすぎないものの、2025年上半期(1〜6月)の経済成長の3分の2以上を牽引した。
そのAI投資を主導するのが、Google(グーグル)の親会社Alphabet(アルファベット)、Amazon(アマゾン)、Apple(アップル)、Meta(メタ)、MicroSoft(マイクロソフト)、NVIDIA(エヌビディア)、Tesla(テスラ)という「テック七巨頭(Magnificent Seven)」だ。
グーグル、メタ、マイクロソフト、アマゾンの4社だけで、データセンター向け投資総額は約4,000億米ドル(約58兆9200億円)に達する見込み。この資金はIT業界にとどまらず、電力需要やインフラ建設、商業不動産市場にまで波及。アトランタやフィラデルフィアでは、AI関連需要を背景に不動産市況が好転している。
株式市場でも、この「AI投資」は強烈な磁力を持つ。特に米半導体大手のエヌビディアは、AIチップ需要の爆発を背景に、わずか1年で株価が数倍に急騰。S&P500全体の時価総額を押し上げ、「AIバブル相場」を演出している。テック七巨頭の株式時価総額はS&P500全体の3分の1をも占め、米国経済の“屋台骨”を担う存在にまで膨れ上がっている。
一方で、GDPの7割を占める消費支出の寄与は減少しており、AIが実質的に経済の舵を握っている構図が鮮明だ。
AIの商業化は想定以上に遅れ
だが、AIの商業化は想定以上に遅れ、初期投資の回収は見通せず、バブルの兆候も漂い始めている。
騰訊網によると、メタのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は「現代のAIブームは、19世紀の鉄道投資、1990年代の光ファイバー投資と同じ道を歩むかもしれない」と冷静に指摘した。鉄道投資、光ファイバー投資のいずれも、資本の過剰流入→バブル膨張→崩壊→生き残りが価値を創出という軌跡をたどった。
経済史家アンドリュー・オードリツコ氏も警告する。「AI製品の多くは市場の期待に届いていない。巨額投資を正当化できるほどの破壊力は、まだ見えていない」と分析する。ゴールドマン・サックス、もし七巨頭が設備投資を22年水準に戻した場合、S&P500全体の売上成長率の30%が消失するという。AIが止まれば、米国経済そのものが減速するまでになっているのだ。
投資家の期待とは裏腹に、AIの企業導入は停滞している。ドイツ発のERPシステムであるSAPによると、企業で実際に稼働しているのは、華やかな生成AIではなく、請求書処理や出張精算といった地味な業務自動化だという。ベンチャーキャピタル関係者は、「本格的なAI普及には少なくとも5年」とみる。
さらにGPU(画像処理半導体)向け高性能メモリ不足(VRAM危機)が、AI推論の大規模展開を阻んでいる。インフラ面の制約が、AI成長の「天井」を決めかねない事態となっているのだ。
スタートアップは“燃料切れ”寸前
OpenAIを筆頭に、AIスタートアップの多くは巨額の赤字を覚悟で成長を追う。リスク投資に依存する構図は、かつてのライドシェア「補助金競争」を想起させる。サービスは無料同然で拡大するが、採算が取れるかは依然不透明だ。
メタのザッカーバーグCEOも認める。「資本市場が冷え込めば、多くのAI企業はデータセンターの維持すら困難になるだろう」と危機感を示している。エヌビディアによるOpenAIへの巨額出資も、循環的な自己強化投資にすぎないとの批判が出ており、“左手から右手へ”の資金移動がバブルを増幅させている。
AIの成長に物理的制約も顕在化
AIが掲げる生産性革命が実現しなければ、いずれ投資の潮は引く。物理的制約(チップ・電力・インフラ)は既に顕在化しており、資本支出の減速は不可避。米金融業界(ウォール街)の焦点はもはや、「AI投資が冷えるか」ではなく、「いつ、どのように冷えるか」となっている。もしAIの成長が鈍化すれば、経済を支える“新エンジン”が止まり、米国経済全体が失速する可能性もある。



