TSMC、米国アリゾナ工場が初の黒字化

(TSMCのウェブサイトより)

半導体受託生産(ファウンドリー)世界大手の台湾積体電路製造(TSMC、台積電)が発表した2025年第2四半期(4〜6月)決算で、同社の税引後純利益は3982億7000万台湾元(約1兆9515億2300万円)に達し、このうち米国アリゾナ工場(TSMC Arizona)が42億3200万台湾元の純利益を計上した。昨年末に量産を開始したばかりの米国工場が、初めて親会社に投資収益をもたらした形であり、赤字が続く日本熊本子会社JASMとの対照が鮮明となった。

決算によると、TSMC Arizonaは24年第3・第4四半期にそれぞれ約498億台湾元の赤字を計上したものの、25年第1四半期(1〜3月)には4億9600万台湾元の黒字転換を果たしていた。ただし当時は投資収益としてなお193億1000万台湾元の損失計上にとどまっていた。第2四半期に入ると純利益は42億3200万台湾元に拡大し、親会社に644億7000万台湾元の投資収益をもたらした。

もっとも、この利益は親会社の四半期純利益全体のわずか1.62%に過ぎない。しかしアリゾナ州のP1工場が量産を開始してからわずか3四半期で黒字化に成功した意義は大きく、TSMCの米国工場の収益性を裏付ける結果となった。

業界関係者によれば、P1工場は24年第4四半期に4ナノメートル(nm)ウエハーの量産を開始。2四半期にわたる立ち上げを経て、米Apple(アップル)やA米半導体大手、Advanced Micro Devices(AMD、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)など大手顧客による需要が殺到し、フル稼働状態が続いている。これによりわずか3四半期で黒字化を達成した。今後P2、P3工場の減価償却負担は懸念材料だが、P1工場の好調な収益は市場に安心感を与えている。

TSMCは当初650億米ドル(約9兆5940億円)を投じて米国に3つの先端工場を建設する計画を発表し、その後さらに1000億米ドルを追加投資。計6つの工場に加え、先端パッケージ工場2棟と研究開発センターの建設を進めている。P1工場はすでに月産3万枚の4nmウエハーをフル稼働で供給。P2工場は建設を完了し、来年第3四半期の設備搬入を経て27年の量産を予定。P3工場もすでに計画が始まっており、3nmプロセス対応によって高付加価値製品需要を狙う。

米国工場は台湾本社に比べ建設コスト・人件費が高いが、肝心なのは稼働率と製品の粗利だ。フル稼働下では人件費や材料費の割合は限定的で、加えて米国工場の価格設定は台湾工場より5~20%高いとされ、収益確保に大きく寄与している。さらに米国の半導体関税の影響を避けたいアップル、AMD、NVIDIA(エヌビディア)などにとって、アリゾナ工場の活用はコスト抑制効果もある。

一方、熊本の子会社JASMが運営する工場は、24年第3四半期以降、4四半期連続で赤字を計上。25年第2四半期も29億7300万台湾元の損失となり、親会社への投資収益も赤字が続いている。上期の稼働率はわずか約50%にとどまり、競争の激しい成熟プロセス領域では政府補助金だけでは採算を確保できない状況だ。

このため業界では、車載市場や消費電子市場の回復が見えないことが熊本第2工場の建設延期につながっているとみる声が多い。予定される6nm生産は27年開始とされるが、その時点で台湾本社は2nm世代に移行しており、熊本工場の競争力には疑問も残る。

TSMCの魏哲家董事長は「海外進出において最優先は顧客需要」と繰り返し強調してきた。今回の米国工場の早期黒字化は、TSMCが米国投資を優先する合理性を示すものといえる。

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