味の素が中国向け供給量を30%削減、中国ABFフィルムが代替生産を加速

味の素がこのほど、中国本土の顧客に対し、ABFフィルムの供給量を30%削減すると通知したことが、中国の先端パッケージ産業のサプライチェーンに緊張を走らせている。もともと逼迫していた需給環境を一段と悪化させるだけではなく、中国で国産のCBF、NBF、GBFなどの積層絶縁フィルムの研究開発(R&D)段階から量産ラインでの代替へと移行する動きを一気に加速させるとみられている。
愛集微によると、世界のABFフィルム市場は極めて集中している。味の素が約95%の市場シェアを握り、圧倒的な主導権を持つ。同社の月間生産能力は現在200万平方メートルを超え、2026年第2四半期(4~6月)もフル稼働が続いている。一方、新たな生産能力が段階的に稼働するのは30~32年になる見通しであり、短期的な供給の硬直性は極めて強い。
業界関係者によると、味の素はすでに中国本土向けのABFフィルム供給を30%削減すると通知した。これにより、中国のサプライチェーンが抱える供給不安はさらに拡大した。業界で長期的な生産能力不足が続くとの見方を裏付ける動きとなっている。
供給側に圧力がかかる一方、価格と納期はすでに警戒シグナルを発している。26年上半期にはABFフィルム単価が明らかな上昇局面に入り、市場では第3四半期以降の新規注文の価格が約30%上昇するとの見方が広がっている。製品の納期も長期化しており、一部の注文では納期が6カ月を超える。生産能力の一部はすでに下流顧客によって27年分まで予約されているという。
上流材料の供給制約は、IC(集積回路)基板や先端パッケージ工程へと徐々に波及している。下流の需要構造を見ると、AI(人工知能)向け計算能力の急拡大がABF基板の需要を数量・価格の両面で押し上げている。従来型PC向けチップに対応する基板の層数は4~6層にとどまるが、高性能AIチップ向けの基板では8~16層に増加している。チップ1個当たりのABFフィルム消費量は倍増し、材料には熱膨張係数、誘電特性、微細配線加工能力など、より高い性能が求められる。
味の素がまとめた2025年の下流需要の内訳によると、サーバー分野が30%超を占め、ネットワーク通信や5Gなどの通信分野が30%を占める。残りは自動車電子機器と民生用電子機器向けだ。AI向け計算能力の需要拡大は、需要量の増加と製品平均単価の上昇を同時に促しており、数量と価格の上昇が市場規模を急速に拡大させている。
需要が急速に拡大する一方、供給は寡占状態にあり、生産能力の拡張にも長い時間がかかる。需給のミスマッチは、業界にとって中長期的に避けられない構造的な問題となっている。短期的に世界で大規模な新規生産能力が稼働する見込みはない。その一方で、AIサーバーやAIチップの生産能力は拡大し続けている。
ABFフィルムの供給不足は一時的な変動ではなく、中長期にわたる業界の現実だ。こうした状況が、中国の産業チェーンに自立・制御可能な供給体制の構築を迫り、国産材料メーカーに前例のない成長機会をもたらしている。
国産メーカーが全面始動
供給制約を背景に、中国政府は早くから対策に乗り出していた。22年には国家発展改革委員会と工業情報化部が主導して重要材料の技術開発を進め、企業は海外特許の壁を回避するため、CBF、NBF、GBFなど差別化された製品の開発に取り組んできた。
数年にわたる取り組みを経て、現在の業界は大きく二つのグループに分かれている。一部の企業は小規模な量産を実現しているが、別の企業はサンプル提供後の検証や、研究室段階にとどまっている。
産業化の進展が最も速い企業として挙げられるのが、華正新材だ。同社のCBFフィルムは、現在、中国国内で最も量産化が進んでいる製品とされる。深圳先進電子材料研究院と共同で、改質エポキシ樹脂とシリカ微粉を組み合わせる技術を採用している。製品の配線幅は5マイクロメートルに達し、性能はABFフィルムに匹敵する。
第1期の生産能力は年間300万平方メートルで、歩留まりは85%を超える。興森科技と深南電路による検証をすでに通過し、長電科技やファーウェイの昇騰(Ascend)向けにも小ロットで供給している。同社は低誘電正接(Df)の高性能モデルの改良を続けているが、HBM向けの超高性能モデルはなお開発段階にある。大規模な出荷には、顧客による本格導入を待つ必要がある。
もう一つの重要企業が、蓮花控股の子会社である深セン紐菲斯だ。同社が開発したNBFフィルムは、中国国内では数少ない9~11層の技術で突破口を開いた製品であり、ABFフィルムの標準策定にも関わる企業の一つである。
現在、9層以下の製品は技術検証をすべて終えている。9~11層の製品が実用化されれば、より幅広い代替が可能になる。製品はすでに中国国内の複数の基板メーカーや後工程企業に供給されており、台湾系基板メーカーによる検証も進められている。昆山での生産能力拡張プロジェクトも計画に沿って進行中だ。
中試験ラインの年間生産能力は約100万平方メートルで、計画上の総生産能力は年間約200万平方メートルとなる。財務データによると、2025年の売上高は650万元だった。2026年上半期の未監査売上高は467万5200元で、前年同期比67.02%増となった。中低価格帯の製品では、すでに量産供給を実現している。
同社は浙江大学とも電子絶縁積層接着フィルムの共同開発を進め、特許の蓄積と生産能力の拡大を推進している。
一方、宏昌電子は、台湾の晶化科技と提携し、GBF先端パッケージ向けビルドアップフィルムの開発を進めている。低損失エポキシ系材料を採用し、樹脂合成、フィルム製造、銅張積層板の三つの能力を一体化する体制を構築している。
製品は中国国内の大手後工程企業による検証を終え、小ロットでの試験生産に入っている。2026年第4四半期から本格的な量産・出荷を開始する計画で、ファーウェイ昇騰の候補サプライチェーンにも入っている。
この3社以外にも、多くの企業が市場でのポジション確保を急いでいる。生益科技は、銅張積層板とBT樹脂で培った技術を基盤に、ABF類似フィルムを独自に開発している。下流企業にサンプルを提供して検証を進めており、AIチップ向けの代替材料として位置付けているが、まだ大規模な量産には至っていない。
天和防務の子会社である天和嘉膜は、「秦膜」シリーズを展開している。低膨張モデルはABFフィルムに相当する性能を目指しており、長電科技や通富微電にサンプルを提供し、信頼性検証を進めている段階だ。
激智科技は光学フィルムのコーティング技術を生かして同分野に参入している。サンプルの社内評価では味の素製品に近い性能を示しており、8月から外部企業へのサンプル提供を開始する計画だ。まずは中堅以下の基板メーカーから検証を進める。斯迪克は現在、研究室での基礎研究段階にある。
研究面では、中国科学院深圳先進電子材料国際イノベーション研究院が華正新材などの企業と産学連携による技術移転を進めている。低熱膨張係数(CTE)、低Dfの積層フィルムの配合と成膜工程を重点的に研究し、中国国内産業に基盤技術を提供する構えだ。
また、光モジュール、ガラス基板、AIスマートフォン向けメイン基板などの新たな用途も、ABF類似の積層フィルムに追加的な市場をもたらしている。
表面的には、中国企業は産業化で一定の進展を遂げ、小ロットでの供給も実現している。しかし、「使える」段階から「十分に使いこなせる」段階へ移行するまでには、なお多くの壁がある。特に中低価格帯の用途からHBMなどの高性能用途へ進むには、短期間では乗り越えられない課題が残されている。こうしたボトルネックを理解して初めて、国産代替の進捗と実現時期を正確に見極めることができる。
多面的な課題が国産品の検証期間を長期化
中国企業はすでに、一般的なCPU(中央演算処理装置)や汎用AIチップ向け基板の用途で小ロット供給を実現している。しかし、高性能HBMや大規模計算向けAIチップでは依然として大きな差があり、大規模な導入には至っていない。
その差を生む要因は単一ではない。複数の課題が連鎖する、体系的な問題となっている。第一は、材料体系の壁だ。中核となる樹脂に加え、球状シリカ微粉フィラーの分散制御や配合の適合性が、熱膨張係数、誘電損失、機械的特性に直接影響する。大量の試行錯誤と経験の蓄積が必要で、配合パラメーターにわずかなずれが生じただけでも、性能が大きく変動する可能性がある。
第二は、成膜工程の壁だ。精密コーティング、焼成、熱圧着がフィルムの厚さの均一性や表面粗さを決定し、その後のmSAPによる微細配線形成の歩留まりに影響する。これらの工程パラメーターは、長期にわたる量産ラインの運用経験に依存する部分が大きい。
第三は、工程適合性の壁である。フィルム材料は、下流の基板メーカーが保有する一連の生産ラインに適合しなければならない。メーカーごとに設備パラメーターが異なるため、個別の調整が必要となる。新たな顧客を1社開拓するたびに、再びすり合わせを行わなければならないことを意味する。
第四は、特許の壁だ。味の素は世界で関連特許を1000件以上保有している。中国企業は特許侵害を避けるために差別化設計を行う必要があり、研究開発の難易度と時間的コストが増している。
最も重要なのは、下流企業による信頼性認証の期間だ。IC基板メーカーや後工程企業は、材料の導入に極めて慎重である。完全な検証には通常1~3年かかり、熱サイクル、湿熱劣化、長期的な電気特性など、多数の試験を完了しなければならない。検証期間が研究開発期間を上回るケースさえある。
サンプルの性能が海外製品に匹敵したとしても、最大のハードルとなるのは、ロット間の一貫性と長期使用条件下での誘電特性の安定性だ。小ロットで性能基準を満たしたからといって、大量生産時にすべてのロットが厳格な指標を安定的に満たせるとは限らない。HBM用途では一貫性と安定性に対する要求が極めて厳しく、これが現在の国産材料にとって最大の弱点となっている。
こうした壁を踏まえて初めて、今回の味の素による供給削減がもたらす実際の影響を、より冷静に判断できる。
高性能品はなお課題
今回の味の素による中国本土向け供給の削減は、短期的には中国のIC基板メーカーが抱えるサプライチェーン上の圧力を強める。一部の企業は、製品の調達難やコスト上昇に直面することになる。
しかし、その一方で、基板メーカーや後工程企業に国産CBF、NBF、GBFフィルムの導入を促し、検証を加速させる効果もある。従来であれば数年かけて進められた可能性のある導入プロセスが、強制的に前倒しされることになる。
もっとも、客観的に見れば、中国企業は全体として小ロット生産が中心で、生産能力にも限界がある。短期的に供給不足を完全に埋めることは難しく、当面はサプライチェーンのバックアップや、中低価格帯の一部用途における代替材料としての役割が中心となる。
長期的に見ると、複数の要因が国産代替の流れを一段と強めている。AI向け計算能力の市場が拡大し、ABF基板の市場規模が拡大することで、国産材料に成長余地が生まれている。サプライチェーンの安全性に対する要求も高まり、下流企業には第2、第3のサプライヤーを育成する強い動機がある。
中国企業の生産能力が継続的に拡大し、激智科技など新たな参入企業によるサンプル提供も進むなか、製品は「使える」段階から「十分に使いこなせる」段階へと改良されつつある。中低価格帯の用途では、国産材料の浸透率が今後も高まる可能性がある。
ただし、課題を冷静に見極める必要もある。高性能HBMに対応する高グレードのABFフィルムは、依然として海外大手への依存度が高い。中国企業はなお技術開発を進めている段階であり、大規模な商用化までには長い距離が残されている。技術格差は一朝一夕に埋められるものではない。
この分野には複数のリスクも存在する。材料の検証時期が不透明で、検証期間の長期化によって商用化が市場の期待を下回る可能性がある。海外大手が今後、新たな生産能力を稼働させれば、国産企業は価格と技術の両面で競争圧力を受けることになる。市場の注目度が高まれば、より多くの資本が流入し、競争環境が激化する可能性もある。
さらに、上流の樹脂や球状シリカ微粉などの重要原材料にも、供給を制約する問題が残されている。フィルム材料の自立的な供給体制を構築するには、上流分野でも同時に技術的な突破を実現しなければならない。単一工程だけの進展では、産業チェーン全体の安全性を支えることは難しい。




