中国製の変圧器、米国AI産業の「生命線」に

米国で拡大するAI(人工知能)産業は、その生命線を中国の変圧器が支えている。中国税関総署が発表した統計によれば、2025年の中国の変圧器輸出額は過去最高となる646億元(約1兆4648億円)に達し、前年比で約36%増加した。工場の受注はすでに26年以降まで埋まり、米国や欧州向けの需要は極めて旺盛だという。

ブルームバーグもこれを追報し、中国製変圧器の供給が逼迫する中、欧州の顧客は生産枠を確保するために2割のプレミアムを支払っているという。米国も24年に約40億ドル(約6224億円)相当の変圧器および関連部品を中国から輸入し、25年も引き続き最大の購入国となっている。

中国を拠点とする送電・変電機器の専門メーカーの思源電気のような中国企業が米国内に子会社を設立しているのも、こうした需要を確実に取り込むためだ。

AIは「電力消費モンスター」

背景にあるのは、AI産業という「100年に1度」とも言われる「電力消費モンスター」の出現だ。イーロン・マスク氏は生成AIサービス企業「xAI」の大規模言語モデル(LLM)「Grok」をトレーニングするため、米テネシー州メンフィスに巨大計算クラスター「Colossus」を建設した。米半導体大手NVIDIA(エヌビディア)のGPU(画像処理半導体)「H100」を10万枚規模で稼働させるこの施設は、稼働するだけで1日150メガワット(MW)もの電力を消費する。これは10万世帯分の1日使用電力に相当し、中規模都市一つ分の電力需要に匹敵する。

しかもAIは単に電力を大量に消費するだけでなく、電力網に瞬間的な極端負荷をかける。大規模言語モデルの計算では、ミリ秒単位で電流負荷が急上昇し、強い高調波を伴う。こうした条件は、老朽化した米国の電力網には過酷だ。

米国では19世紀末にはすでに長距離送電が始まり、20世紀半ばまでに全土に電力網が整備された。しかし、その後60年以上にわたり大規模な更新がほぼ行われていない。米エネルギー省によれば、現在米国の送電線と大型変圧器の約7割が25年以上使用されている。

AIデータセンターの急増により、老朽化した電力網は限界を迎えている。過去10年間で米国では大規模停電が10回発生し、25年12月にはサンフランシスコで10万世帯超が停電する事態も起きた。老朽設備が原因とみられている。

電力網の更新が不可欠

米政府は電力網の更新を急ぐ。電力は発電所から送電網、配電網、末端供給を経てAIチップに届くが、そのすべての要所に不可欠なのが変圧器だ。ところが米国内の大型変圧器メーカーは8社未満で、国内需要の2割しか賄えない。需要は19年以降倍増している一方、増産しても納期は2〜4年を要する。

このギャップを埋める現実的な選択肢が、中国からの調達となっている。しかも、中国製変圧器は方向性電磁鋼板が強み。極めて高度な製造技術を要するこの素材は、高効率・低損失の変圧器に不可欠で、中国は世界をリードしている。世界が0.23ミリ厚を追求する中、中国は0.18ミリという最先端水準を実用化している。

さらに中国は圧倒的な量産力を持つ。方向性電磁鋼板の生産量は世界の半分以上を占め、日本の5倍、米国の8倍に達する。技術だけでなく、規模とコストの壁が、他国には容易に越えられない。

この供給がなければ、米国では昨年だけで3〜4割の新規AIデータセンターが予定通り稼働できなかった可能性が高いとされている。中国は世界生産能力の約6割を握り、電力インフラとAI時代のボトルネックを事実上支えているとみてよさそうだ。

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