韓国SKグループ、次世代パワー半導体開発を主導へ

韓国SKグループは、韓国政府が推進する「15大スーパーイノベーション経済プロジェクト」の一つであるパワー半導体開発事業に、牽引役として参加する。韓国大手企業が李在明(イジェミョン)政権の同プロジェクトに参画するのは今回が初めてだ。国内大手がパワー半導体投資に慎重姿勢を示すなか、政府がサプライチェーン全体を対象にした官民協力モデルを提示したことで、SKが先陣を切る形となった。続いてサムスン電子もパワー半導体の市場調査を開始した。
パワー半導体は、ヒューマノイドロボット、電気自動車(EV)、データセンターなど未来産業の鍵を握る製品で、炭化ケイ素(SiC)などの特殊材料を用いることで発熱と電力損失を大幅に低減できる。韓国政府は、2030年のSiC半導体市場規模が年間20%成長し、103億ドル(約1兆5965億円)に達すると予測している。
SKグループの参入により、次世代半導体開発競争の激化が必至とみられる。政府はSKを民間セクターの代表として、SiCウエハーなど材料からパッケージング工程までを網羅するバリューチェーン構築を計画。そのうえで中小企業・大学・研究機関をつなぐ統合エコシステムを形成する方針だ。関連規制の緩和も進め、持株会社の孫会社規制などの見直しも検討する。政府関係者は「パワー半導体はHBM(高帯域幅メモリ)のように、産業構造を変える“ゲームチェンジャー”になる」と述べている。
背景には、グローバルで激しさを増す「次世代半導体」競争がある。GPU(画像処理半導体)とHBM(高帯域幅メモリー)が市場を席巻するいま、今後は高性能GPUへ安定的に電力を供給するパワー半導体の重要性がさらに高まる。
データセンターの電力消費は都市1つ分に相当し、自動運転車は数百のセンサー情報をリアルタイム処理する超高性能計算能力を要求する。ヒューマノイドロボットは高温・振動環境で多軸モーターを精密制御する必要がある。これらに共通する課題が発熱と効率であり、最適なパワー半導体なくして安定稼働は不可能とされる。特にSiCベースのパワー半導体は高温・高圧環境で既存のシリコン製品を上回る性能を発揮し、次世代産業の電源効率を大きく左右する。市場は30年に685億ドル規模に達すると予測される。
しかし韓国の競争力は依然として低く、差は拡大しつつある。HBMをはじめとするメモリーでは圧倒的優位を持つ韓国だが、SiCパワー半導体では後発組となっている。特に市場が8インチウエハー中心へ移行するなか、韓国メーカーは依然6インチウエハーでの生産が主流で、効率面で遅れが懸念されている。
SiCパワー半導体市場ではSTマイクロエレクトロニクスが首位を走り、米半導体大手Onsemi(オン・セミコンダクター)、独Infineon Technologies(インフィニオン・テクノロジーズ)が続く。中国も材料から後工程まで垂直統合を加速し、存在感を強めている。
専門家は、SKが韓国の最有力リーダーになり得るとみている。SKシルトロン(ウエハー)やSKハイニックスSystem IC(ファウンドリー)など、垂直統合が可能な基盤をすでに持つためだ。さらに、国内パートナー企業と築いてきた厚い信頼関係も強みとされる。業界関係者は「HBMでの再興をみても、SKは外部専門家の意見を積極的に取り入れる企業だ。SKのような大企業がアンカーとなれば、エコシステム構築も安定する」と話している。
韓国政府は、30年を見据えた長期ロードマップで横断的支援を強化する方針だ。今年9月にはSiCパワー半導体推進チームを発足し、11月には具体的な技術開発課題を策定。26年上半期に国家科学技術諮問会議の審議を経て方向性を確定し、27年に8インチ公共ファブでのプロトタイプ製造と実証を開始する。29年に最終プロトタイプを完成させ、30年の量産化を目指す。この計画により、SiCパワー半導体の技術自立度を現在の10%から20%へ引き上げる方針だ。



