米Tachyum、2nmチップの「Prodigy」発表

米国の半導体企業Tachyum(タキウム)がこのほど、驚異的な性能を誇る新世代2ナノメートル(nm)チップ「Prodigy」を発表した。最大1024コア、6GHz駆動、1GBキャッシュを備え、DDR5の超高速メモリをサポートする同チップは、同社によれば「NVIDIA Rubin Ultraを圧倒する性能」を実現するという。
Tachyumの説明によると、この「Prodigy 2nm」プロセッサは単一ソケットで最大1024個の64ビットコアを搭載でき、周波数は最高6.0GHzに達する。さらに最大16ソケット構成にも対応し、総計8192コアを実現可能だ。AI推論性能は1,000ペタFLOPSを超え、NVIDIA(エヌビディア)のRubin(50ペタFLOPS)と比較して実に21倍の性能を誇ると主張している。
Tachyumは、上位モデル「Prodigy Ultimate」がNVIDIAの「Rubin Ultra(NVL756)」より21.3倍高速であり、「Prodigy Premium」もRubin(NVL144)より25.9倍高性能だと発表している。ただし、両モデルの仕様上の違いは明らかにされていない。
同社は長年にわたり、AI(人工知能)・サーバー・HPC(高性能計算)市場に向けた設計改良を続けてきた。整数演算性能は最大5倍、AI性能は16倍、DRAM帯域幅は8倍に向上。I/O帯域も4倍拡大し、16ソケット対応によるスケーラビリティと2倍の電力効率を達成したという。
今回の2nm世代への移行により、消費電力は大幅に低減。高価な2nmウエハーを採用しながらも、チップ面積の縮小でコスト削減を実現している。Prodigyは1パッケージ内に256個の高性能64ビットコアを統合し、複数チップを組み合わせて構成される。2億2,000万ドルの新規投資を背景に、同社はまもなく試作チップ(流片)を開始するとしている。
スペックの概要は以下の通り。製造プロセスは2nm、最大1024コア、6GHz動作、キャッシュ1GB、TDP最大1600W。DDR5メモリは17,600MT/sに対応し、1ソケットあたり最大48TBを搭載可能。PCIe 7.0を128レーン備えるなど、サーバー市場では前例のない仕様となっている。
Prodigyの64ビットアーキテクチャはAI・HPC向けに最適化されており、行列およびベクトル演算拡張をサポート。1クロックあたり最大8命令を実行可能とされる。キャッシュ構成は命令キャッシュ128KB、データキャッシュ64KB(ECC対応)、L2+L3キャッシュ合計1GB。構成バリエーションは32〜1024コアまで幅広く、TDPは30Wから1600Wまで段階的に用意される。
さらに、Prodigyは最大24チャンネルのDDR5に対応し、PCIe 7.0コントローラを64基搭載。Tachyumはこのプラットフォームが「2027年以前に実際に登場する可能性は低い」としつつも、「実現すれば2030年の市場でも革新的な存在となる」と自信を見せる。
Tachyumの創業者でCEOのラドスラフ・ダニラック氏は、過去にNVIDIAで「Tesla」や「nForce 4 GPU」の設計に携わった経歴を持つ。さらに、SSDコントローラ企業SandForceやフラッシュストレージ企業Skyeraを創業し、いずれも高額で買収された実績がある。Tachyumは2016年に設立され、米カリフォルニア州サンタクララに本社を、スロバキア・ブラチスラバにR&D拠点を構える。
同社は、20年時点で半導体受託生産(ファウンドリー)世界大手の台湾積体電路製造(TSMC、台積電)の7nmプロセスによる量産を計画していたが、その後たびたび延期。19年の試作予定から21年、22年、23年、24年とずれ込み、現在は25年に試作を完了し量産に入る計画としている。
ダニラック氏は、「Prodigyのアーキテクチャは、RISCとCISCの利点を融合させた独自ISAを採用しており、従来型CISCのような複雑な命令構造を排除して高効率を実現する」と説明する。また、同社が公開したFPGA版ガイド(全1600ページ)では、性能最適化やメモリアクセス、分岐制御の改善手法が詳細に解説されている。
Tachyumは23年に独自AIデータ型「TAI」を発表し、TPUコアやISAをオープン化。さらにDIMMベースのメモリ帯域を10倍に引き上げる技術を他社にライセンス供与する計画も進めている。
同社によると、従来の大規模AIシステムは8兆ドル以上、276GWの電力を必要とするが、Prodigyを使えば約780億ドル・1GWで同等性能を実現できるという。用途はAI・スーパーコンピューティング・HPC・デジタル通貨・クラウド・ビッグデータ解析など広範囲に及ぶ。
Tachyumは2025年の量産を目指し、Cラウンドでの資金調達を完了。欧州の投資家から2億2,000万ドルを受け取り、さらに5億ドル相当のProdigyチップ受注を獲得したと発表している。もしこのチップが予定通りに登場すれば、AI・サーバー・スーパーコンピューター分野において、NVIDIAをはじめとする既存勢力にとって最大の脅威となるかもしれない。
Tachyum Unveils 2nm Prodigy with 21x Higher AI Rack Performance than the Nvidia Rubin Ultra



