中国、リチウム金属電池で世界的ブレークスルー
——航続距離2〜3倍増、産業革命の引き金に

世界的科学誌『ネイチャー』で、中国・天津大学の研究チームがリチウム金属電池の研究で、従来のリチウムイオン電池に比べて2〜3倍のエネルギー密度を実現したと発表した。中国が次世代エネルギー技術の最前線で世界をリードしていることを示しているとして注目されている。
天津大学チームが開発した新概念「離域化」電解液設計により、ソフトパウチ電池で600Wh/kg、モジュール電池で480Wh/kgのエネルギー密度を達成。これは現行のリチウムイオン電池(約250Wh/kg)を大きく上回る。イメージとしては、スマートフォンが1度の充電で1週間稼働し、ドローンが数時間連続で飛行できるレベルだ。
研究の核心は、従来の「溶媒主導」または「アニオン主導」に偏った電解液設計を超え、多様性と無秩序性を導入したこと。これにより電極界面の反応を安定化させ、エネルギーの出力効率と寿命を両立させることに成功した。胡文彬教授率いる研究チームは数年の研究開発を経て、世界最高水準の性能と安全性を兼ね備えた電池を実現した。

応用分野へのインパクトも絶大だ。天津大学はすでに試作ラインを立ち上げ、新型電池を搭載した小型電動ドローンで実証実験を実施。飛行時間は従来比2.8倍に伸びた。電動車に応用すれば、航続距離は400〜600kmから1000km以上へと大幅に向上し、充電への不安を大きく解消できる。さらに、ヒューマノイドロボットや先端電子機器においても軽量・高出力の電池は稼働時間延長に直結し、産業構造の変革を後押しする。
天津大学チームは電池の材料から製造技術まで全てを自立的に掌握しており、国外依存を回避。今年下半期には量産化が予定されており、コスト削減と市場拡大が期待される。これにより、中国のバッテリー産業は世界基準をリードする可能性が高まる。
環境面でも貢献は大きい。充電回数の削減は電力消費と二酸化炭素(CO2)排出の抑制に直結する。ドローン物流や都市監視など「低空経済」の発展も促進され、持続可能な社会づくりに寄与するだろう。
今回の成果は、研究室から実用化までのスピード感でも注目される。数年で飛行実験に至った点は、他の研究分野にも成功モデルを示すものだ。もちろん、量産時の安定性確保といった課題は残るが、すでにチームは安全性試験を進めており、実用化への道は開かれている。
総じて、リチウム金属電池の大躍進は天津大学の英知の結晶であり、中国の科学技術力の象徴である。生活の利便性向上から産業の効率化、そして持続可能な未来社会の実現に至るまで、その波及効果は計り知れない。今年下半期の本格量産を機に、電動車が千里を駆け、ドローンが空を自在に舞う新時代が到来する可能性が高い。
Delocalized electrolyte design enables 600 Wh kg−1 lithium metal pouch cells



