中国科学技術大、古典コンピュータ超える冷却原始系の量子シミュレータ開発
中国科学技術大学の潘建偉教授ら研究チームは10日、量子の高温超伝導やスピン電荷分離などの新しい現象を捉えるモデル「フェルミハバードモデル(Fermi-Hubbard model)」で構築した超低温原子量子シミュレータ「天元」の開発に成功し、古典コンピュータを超えるシミュレーション能力で初めて反強磁性相転移を検証したと発表した。国際学術誌「Nature(ネイチャー)」オンライン版に掲載された。
超低温原子量子シミュレータ「天元」は、光格子と呼ばれるレーザー光の定在波による周期ポテンシャルを冷却原子系に構築したもの。反強磁性相転移とは、系の温度をある臨界温度以下に下げると、物質が常磁性状態(物質中の電子のスピンの向きが乱れている状態)から、電子のスピンの向きが秩序化した反強磁性状態に急激に変化すること。この反強磁性相転移を検証できる量子シミュレータの構築は、フェルミハバードモデルによる量子シミュレータを実現するための第一歩となる。
研究チームは長年の研究の末、ボックス型光学ポテンシャルとフラットトップ光学格子技術を組み合わせることで、空間的に均一なフェルミハバードモデル系の断熱的調製を実現。この系は約80万格子点を含んでおり、現在の主流の実験における数十格子点よりも約4桁高い。反強磁性相転移の決定的な証拠が直接観測されたことにより、フェルミハバードモデルがドーピング条件下で反強磁性相転移を含むことが初めて検証された、としている。
中国科学技術大学物理学部によると、フェルミハバードモデルは、光格子中の電子の運動法則を最も単純化したモデルで、高温超伝導材料を記述する代表的なモデルの一つと考えられているが、その研究は大きな課題に直面していた。スーパーコンピューターでも効果的な数値シミュレーションができていなかったという。
Antiferromagnetic phase transition in a 3D fermionic Hubbard model