メモリ不足が“パニック買い”を誘発 ASUSやMSIなど各社が大量備蓄へ

2025年第4四半期(10〜12月)に入りメモリ調達熱が一段と加速し、サプライチェーン全体で“パニック的な買い占め”が発生している。華碩(ASUS)、微星(MSI)などのブランドやシステムベンダーが大規模な在庫積み増しに乗り出している。
背景には、大手クラウドサービスプロバイダー(CSP)によるHBM(高帯域幅メモリ)やDDR5 RDIMMモジュールへの需要が急増し、メモリが2026年の事業環境を左右する戦略物資となったことがある。現在、モジュールメーカーとシステムメーカーは、全面的な備蓄競争を展開している。
主要メモリモジュールメーカーの2025年第3四半期(7〜9月)決算は過去最高を記録。創見(Transcend)は25年10月単月の利益が前年同月比2.4倍となり、第3四半期の総利益の半分近くに迫った。上流のOSAT(パッケージ・テスト)企業も回復基調にあり、南茂科技(ChipMOS)や華東科技(Walton )、福懋科技(Formosa)などが黒字転換し、近年で最高水準の四半期利益を実現した。
力成科技(PTI)の子会社OSEも過去5四半期で最高の利益を計上。力成科技は25年第4四半期の売上が1桁台の伸びとなり、26年第1四半期も前年同期を大幅に上回ると予測している。
供給逼迫と価格高騰が進むなか、十鋼科技(Team Group)は一時、取引サイトの「Price.com.tw」から直販価格表を取り下げ、DIYユーザーの一時的な不安を引き起こした。ほどなく価格表は復帰したものの、小売店は26年を通じて供給元による“出荷制限・価格提示停止・値上げ”が続くと見ている。
メモリの買い付け競争
IT之家によると、市場関係者は「ASUSやMSIなどの各社は、サーバー向けメモリやPC向けメモリの安定供給確保を目的に、現物市場で積極的な買い付けを進めている」と指摘する。
一部クラウド企業は従来、システムインテグレーターにメモリ調達を委ねていたが、現在の売り手市場では大手CSPが主要サプライヤーの大半のキャパシティを押さえてしまっている。その他の顧客は、現物市場での買い付けや、急遽非提携サプライヤーの認証取得に走っているものの、認証後も割り当て待ちが続いている。
ASUSによれば、25年第3四半期末時点で部材在庫は約2カ月分で、チャネル在庫も同水準。現時点ではメモリ不足が同社の第4四半期業績に大きな影響を与えることはないとするが、需給逼迫が長期化すれば適切な価格調整が必要になるという。「供給元が出荷拒否をしているわけではなく、単に顧客ごとの割り当てが不足しているだけ」との声もある。
市場では、メモリ不足は26年を通して続くとの見方が一般的だ。この状況では、現物市場での調達はもはや“資源確保”と同義であり、ODMやシステムメーカーも買い付け競争に参戦。確保したメモリを他のCSPに横流しする動きも検討され始めている。
現物市場ではDDR5 RDIMMモジュールの価格が急騰し、64GBは700米ドル超、96GBは1,200米ドル、128GBは2,400米ドルに迫る勢いだ。
市場関係者は、メモリ市場がすでに“パニック調達フェーズ”に入ったと指摘。上流サプライヤーは需給ギャップの再評価後でなければ新規契約を結ばない姿勢を強めている一方、“深刻な不足”との噂が市場心理をさらに刺激し、価格上昇と買い付け加速に拍車をかけている。
こうしたなか、台湾地区企業の幹部らは相次いで韓国を訪問し、供給確保の交渉を進めている。実際のキャパシティ配分はサプライヤーとの長期関係に強く依存するが、これまで“コスト優先”で調達してきた企業は、短期の突貫調達では効果が限定的という現実に直面している。
またDDR5だけでなく、DDR4も「あればすぐ買われる」状況に突入。ネットワークスイッチメーカーは固定されたハード設計によりDDR5への切り替えが難しく、DDR4の価格が同仕様のDDR5を上回っても対応できないため、コスト圧力が増している。
メモリ価格高騰が続けば、一部PCブランドは2026年モデルでDRAM容量を縮小する可能性がある。業界関係者は「DRAM高騰がエンドユーザー体験を損なうとして、適応型エッジAIソリューション”の普及を後押しするだろう」と指摘。これはDRAM依存度を低減しつつAI PC性能を維持する仕組みで、コストと性能の最適バランスを図る手段になる。
今回のメモリ争奪戦は、流通業者からモジュールメーカー、ブランド、SI企業にまで拡大。AIサーバー需要が生産能力を圧迫し続けるなか、市場の逼迫状態は26年末まで続き、27年も供給不安が残る可能性が高いとみられる。



