中国の組込みCPU、エッジAIなどの需要拡大で業績好調に

AIoT(AI+IoT)やエッジAI(人工知能)、そしてRISC-Vアーキテクチャの普及を背景に、組込みCPU(中央演算処理装置)は中国の半導体分野で最も成長の速い領域の一つとなっている。端末側でのAI技術の進化が進むことで、IoT(モノとインターネット)スマートデバイス分野の高度化が加速し、組込みCPUに新たな発展機会をもたらしている。
CPUは用途によって、汎用CPU、組込みCPU、マイクロコントローラーなどに分類される。このうち、組込みCPUは組込みシステムの中核として、機器制御の重要な役割を担っている。
AIoTとエッジコンピューティングの普及により、組込みCPUの需要は急拡大している。米調査会社IDCのデータによると、2024年の世界のIoT端末接続数は150億台を超え、年平均成長率は22%以上。このうちAI処理能力を持つスマート端末は全体の38%を占めた。同年、中国のエッジコンピューティング市場規模は1,800億元(約82兆8956億円)を突破し、産業IoT、コンシューマーエレクトロニクス、車載インテリジェンスが全体の7割超を支えている。
米Qualcomm(クアルコム)、オランダのNXP Semiconductors N.V.(NXPセミコンダクターズ)、スイスのSTマイクロエレクトロニクス(ST)などの世界の半導体大手は、長年の技術蓄積と強固なエコシステムを背景に世界市場をリードしてきた。
中国組み込みCPUが伸長
一方、中国企業は製品技術、収益構造、利益率、そして市場シェアの面で依然として差があるものの、研究開発(R&D)費比率や売上成長率などを見ると、その追い上げの勢いは確実に増している。国内市場特有のニーズに基づく差別化競争こそが、国産組込みCPUが世界大手を超えるための現実的な道筋といえる。
25年中間期決算によると、中国組込みCPU企業は業績・市場シェアともに大きく伸長した。晶晨半導体(上海)股フン(Amlogic、上海市)は売上高4億6,500万ドルで過去最大となったほか、AIoT向け半導体メーカーの瑞芯微電子股フン(Rock chip、福建省福州市)は63.85%の高成長を記録した。ファブレス半導体メーカーの珠海全志科技(Allwinner、広東省珠海市)は1億8,700万ドル(25.82%増)、CPUメーカーの北京君正集成電路(北京市)は3億1,400万ドル(6.75%増)、CPUメーカーの龍芯中科技術(Loongson 、北京市)は3,400万ドル(10.9%増)だった。一方、IoTやデジタルテレビ向けのチップ開発の蘇州国芯科技股フン(CCore、江蘇省蘇州市)は2,400万元と減収(-34.74%)を記録した。
一方で、国際大手の規模は依然として圧倒的だ。2025年上半期、クアルコムの売上は226億4,900万ドル、NXPは57億6,100万ドル、STマイクロは52億5,700万ドルに達している。粗利益率では、クアルコムとNXPが50%以上、STマイクロは33.45%だったのに対し、国内企業は30%前後が中心。比較的高い瑞芯微と龍芯中科でも約42%にとどまる。これは、収益性や製品構成、価格決定力において、依然として明確な差があることを示している。
ただし、売上成長率では国産勢の勢いが目立つ。瑞芯微は63.85%、全志科技も25.82%と好調。一方、クアルコムは17.2%、NXPは7.87%減、STマイクロは21.18%減と伸び悩んでおり、成長ポテンシャルでは中国企業の存在感が増している。
研究開発費も拡大し将来性
組込みCPU産業はR&Dへの投資が生命線だ。25年中間期では、龍芯中科の研究開発費率が96.28%、国芯科技が89.9%と突出しており、これが赤字要因にもなっている。その他の企業は10~25%の範囲に収まっている。金額ベースでは、クアルコムのR&D費が44億4,600万ドル、NXPが11億2,000万ドル、STマイクロが10億400万ドルと桁違いだが、研究開発費率では国産企業も決して劣っていない。瑞芯微(7.24%増)、全志科技(4.28%増)、晶晨股份(8.98%増)など、各社とも開発投資を着実に拡大している。
こうした中で、国産組込みCPUの突破口は「差別化競争」にある。国際大手が「汎用性・高性能」を軸にしているのに対し、国内企業は中国市場特有の需要に焦点を合わせ、現地でのきめ細かな対応によって優位性を発揮できる。産業分野では耐ノイズ設計、コンシューマー分野では低コストソリューションの提供など、明確な方向性が見えている。
たとえば国芯科技は、オープンソースアーキテクチャ「RISC-V」に基づくCPU「CRVシリーズ」を開発し、車載電子機器や産業制御向けのリアルタイムアプリケーションに対応。さらにAI向けNPU(ニューラルネットワークプロセッサ)「CNNシリーズ」を展開し、エッジAIおよびAIPC分野での応用を拡大している。
特許戦略も各社が重視しており、瑞芯微は特許1,211件(うち発明特許530件)、全志科技668件、晶晨股份333件、北京君正499件、国芯科技254件、龍芯中科は1,009件を保有している。



