ホルムズ海峡封鎖、中国の太陽光発電業界で中東向け納品遅延リスク

米国・イスラエルとイランの軍事衝突によるホルムズ海峡封鎖が、中国の太陽光発電産業チェーンにも大きな影響を及ぼしている。太陽光発電業界における最も直接的なリスクは「納品履行」に集中。航路の変更、船腹予約の制限、紛争関連の追加費用などが重なり、貨物遅延のリスクが高まっている。

今回の危機は、中東に深く進出している中国の太陽光発電企業にも波及している。建設中プロジェクトの遅延、輸出ルートの遮断、原材料コストの上昇、資金調達環境の悪化といった複数の圧力に直面している。

騰訊科技によると、エネルギーやデジタルインフラに特化する中国のActive Energyは3月初旬、アラブ首長国連邦(UAE)での初プロジェクトの納期が当初計画より遅延する見通しを明らかにした。中東情勢の混乱や承認手続きの遅れなど、複合的な要因が進捗に影響しているという。

ある中国のモジュールメーカー関係者は、「中東向けの航路の一部が停止し、地域の緊張により海上保険料が3〜5倍に上昇している。状況は楽観できない」と語る。別の太陽光発電下流メーカーも、中東向け出荷計画の不確実性が高まっているとし、現地顧客との連携を強化し、緊急対応策の協議を進めている。

エネルギー転換進める中東

興味深い事実として、世界有数の産油地域である中東は、いまエネルギー転換を急速に進めている。広大な砂漠と豊富な日照を背景に、各国政府は石油依存からの脱却を目指し、電力需要の増大とともにグリーン水素など新産業を育成。中東は現在、世界で最も成長の速い太陽光発電市場となっている。

中東の太陽光発電モジュール市場では、中国企業が圧倒的なシェアを握る。統計によると、2024年の中東・北アフリカ地域の太陽光発電新規導入量は前年比約25%増と世界平均を上回り、25年にはサウジアラビアやUAEの大型プロジェクトの稼働により、総設備容量は前年比40%以上の急増が見込まれている。中国にとっても重要な輸出先となっている。なかでも晶科能源、天合光能、晶澳科技、隆基緑能といった企業群が中核を担い、多くのギガワット級プロジェクトに関与している。

ホルムズ海峡封鎖で輸送路寸断

しかし、イランによるホルムズ海峡封鎖により、この重要な輸送路が寸断された影響は甚大だ。物流からサプライチェーン、資金調達、さらにはエネルギー政策に至るまで、急成長していた中東太陽光発電産業は大きな圧力にさらされている。

最も直接的な打撃は物流だ。英国の海運データによれば、2026年3月1日から13日までに同海峡を通過した船舶はわずか77隻で、前年同期の1229隻から93.7%減少。さらに3月14日には事実上ゼロとなった。

海運大手MSC(地中海海運)は、中東向け貨物予約の一時停止を発表。状況改善まで運航再開は見通せない。

太陽光発電プロジェクトに必要なモジュールやインバーター、追尾架台などの主要設備は、主に中国や東南アジアから海上輸送される。航路が封鎖されれば、貨物は湾口で滞留するか、喜望峰経由の迂回を余儀なくされ、輸送距離は約40%増加する。

製造コストが上昇

また、エネルギー価格の変動もコストに波及している。EVA封止材やバックシート、アルミフレームなどは石油化学産業に依存しており、原油価格の上昇はそのまま材料コストに転嫁される。

もっとも、現時点ではモジュール価格への直接的影響は限定的とされる。中東市場では通常、納入の1〜2年前に契約が締結されるため、短期的な価格変動は反映されにくい。

さらに、イランは世界第2位のメタノール生産国であり、紛争発生後わずか1カ月で中国の国内メタノール価格は46%急騰。化学産業チェーン全体のコストが押し上げられている。加えて、イランのソーダ灰供給の停滞や石油・ガス価格の上昇も、太陽光発電ガラスの製造コストを押し上げている。

中東が重要な戦略拠点

中東が世界有数の成長市場へと浮上する中、中国の太陽光発電企業にとっても同地域は重要な戦略拠点となっている。25年、中国の対中東太陽光発電モジュール輸出額は約29億9,700万ドル(4,781億9,200万円)に達し、全体の10%以上を占めた。

TCL中環、晶科能源などの大手は、サウジアラビアで大規模プロジェクトを計画・推進中であり、遠景能源や天合光能なども現地化を加速させている。しかし、地政学リスクの高まりにより、これらの投資計画にも不透明感が広がり始めている。

特に注目されるのが、サウジ政府系ファンドPIF主導の巨大プロジェクト群だ。総容量5.5GWに及ぶ発電所群は、2027年前後の稼働を目指すが、設備輸送や保険、納期の不確実性が大きな課題となっている。

また、UAEのMasdarが主導する超大型太陽光発電+蓄電プロジェクトも、サプライチェーンの遅延がシステム全体に影響する構造を持つ。中国企業はモジュール供給や蓄電システム、建設などで深く関与しており、影響は避けられない。

さらに、総額約83億ドル規模の新たな再エネプロジェクトも進行中で、中国企業が多数参画。27〜28年の稼働が見込まれるが、情勢次第ではスケジュールに影響が出る可能性がある。

地政学リスクの高まりを受け、中国企業の戦略にも変化が見え始めている。一部企業は中東を「高成長だが高リスク市場」と再評価し、投資を慎重化。別の企業は米国など他地域への展開を強化している。

一方で、天合光能のようにグローバル展開をさらに推進する企業もある。分散型エネルギーシステムの構築などを通じ、地域ごとの最適化戦略を進めている。

この危機はまた、政策レベルでの再考も促している。エネルギー輸入に依存するアジア諸国にとって、ホルムズ海峡の不安定化は深刻な問題であり、供給源の多様化と安全保障の強化が急務となっている。

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