ヘリウム価格急騰、中国の半導体産業には好機も=中東情勢

イラン軍事衝突の発生で、ヘリウムの価格が高騰し、半導体産業を直撃している。中国も8割を輸入に依存しているものの、国内では純度99.99997%の超高純度ヘリウムの生産がすでに可能で、さらにロシアからの代替輸入も進む。中国半導体産業にとっては好機になるとの見方も出ている。
米国とイスラエルによるイラン攻撃で、ヘリウム価格が急騰して半導体産業を直撃している。韓国メディアTheElecの報道によれば、米イラン軍事衝突発生後にヘリウム価格は急騰し、工業用ヘリウムは50%増、液体ヘリウムは60%増、電子グレードの6N高純度ヘリウムに至っては2倍に跳ね上がった。
世界は一気にヘリウム危機に直面し、最大の打撃を受けているのは韓国の半導体大手で、現在は競うように在庫の囲い込みに走っている。中国国内の価格は多少マシとはいえ、それでも20%から50%の値上がりとなっている。
ロシアから代替供給も
中国も8割以上のヘリウムを輸入に頼り、その半分以上はカタール産だ。中国の半導体産業にはむしろ好機があると言えるのか。現在、国内では純度99.99997%の超高純度ヘリウムの生産がすでに可能であり、このグレードは半導体や宇宙航空といった先端分野でも十分に使用できる。
問題は生産能力がすぐに拡張できるわけではなく、設備・技術・工程のすべてが追いつく必要があり、時間がかかることだ。
しかし中国にはロシアという補完的な供給源がある。ロシアも天然ガス大国であるためヘリウムの生産量は少なくなく、世界シェアは10%程度に達する。カタールには及ばないものの、一定の代替供給源となり得る。
しかもロシア産ヘリウムの価格には明らかな優位性がある。25年の中国市場では、ロシア産液体ヘリウムの平均価格は1キログラム当たり64.5ドル(約1万320円)であるのに対し、カタール産は100ドル前後だ。25年の最後の2カ月には、中国のロシアからのヘリウム輸入量がすでにカタールを上回った。ロシアの専門家も、カタールに代わって中国最大のヘリウム供給国になる可能性が十分あると述べている。
一方、韓国など米国の対ロシア制裁に追随している先進国は、ヘリウム供給においてこれほど有利な立場にない。
このヘリウム危機が引き起こした半導体危機は、中国への影響が韓国ほど大きくないばかりか、中国にはある種の優位性すらある。それは、ヘリウムへの依存度が韓国ほど高くないという点だ。
ヘリウムは中国の強み
中国の半導体産業が注力しているのは先端プロセスではなく、成熟プロセスだ。25年末から26年初頭にかけて、世界の成熟プロセスチップ受注の7割が中国の工場に流れ込んでいる。これらの成熟プロセスは主に28ナノメートル(nm)以上のノードだ。
この違いがなぜ重要なのか。チップのプロセスが微細になるほど、ヘリウムの純度要求が格段に厳しくなるからだ。7nmや5nmといった先端プロセスでは、エッチングや成膜の工程で必要なヘリウムの純度が99.9999%(6Nグレード)以上でなければならず、一部の高度な工程では99.99999%(7Nグレード)に達することすら求められる。
チップの配線幅はわずか数nm、髪の毛の1万分の1以下の細さだ。ヘリウムに酸素・水分・塵などの不純物がわずかでも混入すれば、ウエハー全体が廃棄となり損失は甚大だ。だからこそ先端プロセスになるほど、ヘリウムへの依存は死活的なものになる。
韓国を見ると、ヘリウム輸入の64%がカタール産で、高純度ヘリウムに至っては80%近くをカタールに依存している。サムスン電子とSKハイニックスは世界のメモリチップ最大手であり、両社の先端プロセスラインは高純度ヘリウムへの依存度が極めて高い。
純度が高いヘリウムほど供給は逼迫し、価格の上昇も急で、特に6Nグレードはほぼ2倍に迫っている。ヘリウムの供給が絞られれば、メモリチップの生産能力に直接影響が出る。特に現在、サムスンとSKハイニックスはAI(人工知能)向けメモリチップの生産を全力で増強しており、高純度ヘリウムへの需要が特に大きい。
中国の事情は異なる。成熟プロセスチップはヘリウムの純度要求がそれほど厳しくなく、価格は上がったとはいえ、代替手段を見つけたり工程を調整したりすることで対応できる。
例えば溶接工程では、ヘリウムの代わりにアルゴンを使うことができる。アルゴンも不活性ガスで、価格はヘリウムの10分の1程度だ。熱伝導性はヘリウムよりやや劣るが、溶接温度と速度を少し調整するだけで同等の溶接品質を実現できる。
また28nmのパッケージング工程では、以前はヘリウムを保護ガスとして100%使用していたが、現在は多くの企業がヘリウムと窒素の混合ガスに切り替え、ヘリウムの比率を30%以下まで引き下げている。これにより生産要件を満たしながらヘリウムの使用量を削減でき、ヘリウムコストを7割削減した企業もある。だからこそ中国は、ヘリウムが不足したからといってサムスンやSKハイニックスのように生産ライン全体が止まるという事態には陥らない。
今回のヘリウム急騰は、中国にとってむしろ好機とも言える。リスクとしては、成熟プロセスへの影響は小さいとはいえヘリウム価格の上昇はコスト増につながること、そしてロシアからの供給にも問題が生じれば圧力に直面することは確かだ。
加えて中国は成熟プロセス分野でもともとコスト優位性を持っている。試算によれば、中国国内でのチップ製造コストは海外より3〜4割低く、中芯国際(SMIC)の28nmの歩留まりは98%前後で安定しており、国際トップ水準とほぼ遜色ない。
さらにヘリウム危機は、中国のメモリチップ産業を後押しする可能性もある。長江存储(YMTC)などの企業はもともと積層数と歩留まりの向上で急速に追い上げている。ヘリウム問題で海外のメモリ大手の生産能力やコストに支障が出れば、中国のメモリ企業がより多くの市場シェアを獲得し、国産代替の流れをさらに加速させるチャンスが生まれる。




