米グーグルのAIチップ「TPU」、26年に生産400万個

米Google(グーグル)が開発した、機械学習・AI(人工知能)処理に特化したプロセッサ(ASIC)「TPU」の需要が、2026年に400万個を量産化するとの観測が浮上している。
TPUを巡っては、投資銀行各社がその動向を集中的に追跡している。米モルガン・スタンレーは1日のレポートで、TPUの中長期生産予測を大幅に引き上げ、27年に500万個へ達すると予測。さらに、TPUを50万個外販するごとに、グーグルの収益を約130億ドル(約20150億円)に押し上げる可能性があると試算した。この推計をきっかけに、市場では「グーグルがAIチップの外販ビジネスを本格化するのでは」との期待が急拡大し、TPUサプライチェーンに注目が集まっている。
一方、より冷静な視点を示したのが、台湾の富邦金控研究が米投資銀行Jefferies(ジェフリーズ)向けに発表したレポートだ。アナリストは、米Meta(メタ)が26年からTPU調達を検討しているとの話題に触れつつも、「26年に400万個生産」という市場観測については、半導体受託生産(ファウンドリー)世界大手の台湾積体電路製造(TSMC、台積電)の高性能コンピューティング(HPC)向け高密度パッケージング技術「CoWoS(コワース)」のパッケージング能力では支え切れないと判断。ボトルネックが解消するのはTSMCの拡張計画が反映される27年以降とみている。
この“時間差”は、AIハードウェア競争の本質を浮き彫りにする。すなわち、急膨張する需要と、限られた超先端製造能力とのギャップだ。投資家にとっては、TPUの成長余地を評価する際、遠大な市場規模よりも、TSMCの能力増強ペースを精密に把握することがより重要になる。
富邦研究によるサプライチェーン分析では、26年に400万個のTPU生産という楽観的予測には無理があるとされる。TSMCのCoWoSモデルを基に算出した結果、26年のTPU総生産量は310万〜320万個程度にとどまる見通しだ。主な制約要因は、◇TSMCのAP8工場はすでにフル稼働にあること◇TSMCの新設AP7工場の一期能力は主に米Apple(アップル)向けであること◇AP7工場の2期能力が整うのは26年末で、26年通年の需要には間に合わないこの――の3点だ。
さらにTSMCは、CoWoSのミドル・ローエンド製品を台湾の半導体後工程(パッケージング、テスト)の日月光投資控股(ASE)に外部委託する計画だが、対象はCPUやネットワークチップに限られる。TPUのようなAIアクセラレーターの先端パッケージングはすべてTSMCの内製のため、短期的にはTPU生産能力はTSMCのCoWoSキャパシティに完全に依存する状況が続く。
TSMCの内部CoWoS能力
とはいえ、中期的には明るい兆しも見える。富邦研究は、TSMCが27年以降の需要を見据え、従来以上に積極的なCoWoS能力拡張姿勢を示していると報告する。TSMCの内部CoWoS能力は、26年末に月12万枚(従来予測11万枚)、27年末に月14万枚(従来予測13万枚)へと増加する見込み。
TSMCは慎重な経営スタイルで知られるが、積極拡張への転換は27年の供給環境改善を示す重要シグナルとされる。生産能力が増えれば、TPUの主要開発パートナーであるBroadcomやMediaTekへの支援も強化される。富邦研究は、これにより27年のTPU生産は500万〜600万個へ倍増すると予測している。
長期的な能力増強は、TPUのビジネスモデル転換にも直結する。モルガン・スタンレーは、TPUサプライチェーンの不確実性が後退し、今後の生産量が「爆発的に増加する」と評価した。同社予測では、グーグルのTPU生産能力は27年に500万個、28年に700万個に到達する見込みで、同2年間の合計1200万個は、過去4年の累計790万個を大きく上回る。この規模感は、グーグルがTPUを外販する“独立プロダクト”として位置づけ始めた初期兆候だと解釈されている。
外販の収益インパクトも莫大だ。モルガン・スタンレーは、TPUを50万個外販するごとに、約130億ドル(約2兆198億円)の売り上げと0.40ドルのEPS押し上げ効果が生まれると算出した。仮にTPU外販が本格化すれば、グーグルはAIチップの“利用者”から“販売者”へと立ち位置を変え、既存のAI半導体市場の勢力図にも大きな影響を与えうる。



