TSMC、中国製レアアース磁石を使わないモーターへの切り替えを設備メーカーに打診

半導体受託生産(ファウンドリー)世界大手の台湾積体電路製造(TSMC、台積電)が、工場の自動化設備に使用するモーターについて、中国産レアアース磁石を使わない製品に切り替えられるか、設備サプライヤーへの打診を始めた。ロイター通信が22日に報じ、米半導体専門メディアのTom’s Hardwareも追随して伝えた。対象は半導体そのものや最先端の露光装置ではなく、工場内の自動化機械に使われるモーターだ。中国がレアアース磁石の供給で圧倒的なシェアを握るなか、TSMCは輸出規制による供給途絶に備え、調達先の多様化を模索している。

中国産レアアースへの依存低減を模索

ロイター通信によると、TSMCは設備サプライヤーに接触し、レアアース磁石を使用しない工場自動化設備を供給できるかどうかを尋ねている。Tom’s Hardwareは、代替モーターの採用を通じて中国産レアアースへの依存を減らし、中国の輸出規制が半導体工場の操業に及ぼす影響を抑える狙いがあると伝えた。

半導体チップ自体にレアアースが含まれているという話ではない。半導体工場では、多数の自動化機械を稼働させるために高性能な永久磁石を使ったモーターが必要となる。ネオジムやジスプロシウム、テルビウムなどのレアアース元素は、高温・高負荷の環境下でもモーターの性能を維持するうえで重要な役割を果たす。高度に自動化された半導体製造ラインにとって、こうした部品の安定調達は欠かせない。

TSMCはこの件について公式なコメントを発表していない。また、報道は単一の情報源に基づいており、代替モーターの採用が決まったことや、サプライヤーが供給を確約したことまでは確認されていない。代替手段を探すことと、実際に切り替えを完了することは別の問題だ。

中国の輸出規制が設備部品にも影響

中国は2025年4月、レアアース7種類と関連磁石を輸出規制の対象に加えた。Tom’s Hardwareが国際エネルギー機関(IEA)のデータとして紹介したところによると、中国は世界のレアアース精製の約90%、完成した永久磁石の約95%を占める。レアアース採掘でも世界シェアは約70%に達する。

TSMCにとって、問題は単なる調達価格の上昇ではなく、供給の継続性にある。先端半導体工場の自動化設備が、磁石の供給遅延によって稼働できなくなれば、生産計画にも影響が及びかねない。

TSMCの主要顧客には、エヌビディア、アップル、ブロードコム、クアルコムなどが名を連ねる。工場設備の供給が滞れば、人工知能(AI)向け半導体から民生用電子機器まで、幅広い製品の生産や納期に波及する可能性がある。TSMCが現段階から代替策を探るのは、供給途絶という最悪の事態に備えるためとみられる。

代替調達先の確保は、サプライヤーとの交渉力を高める効果も期待できる。短期的に代替品の実用化が難しいとしても、TSMCが複数の選択肢を検討していると示せば、設備メーカーに対して納期や在庫の確保を求めやすくなる。

設備メーカーから半導体の顧客まで波及も

最初に影響を受けるのは、工場自動化設備のメーカーだ。各社はモーターの設計変更を検討するほか、上流の磁石サプライヤーに対して、中国以外の原産地から調達した部品であることを証明するよう求められる可能性がある。単純な部品交換では済まず、材料の認証や信頼性試験など、一連の検証プロセスが必要になる。

その先には、エヌビディアやアップルなどTSMCの大口顧客がいる。これらの企業がモーターを直接調達するわけではないが、半導体工場で供給上の問題が発生すれば、チップの納期や価格に不確実性が生じる。とりわけ、需要が急増しているAI半導体では、生産能力の拡大が設備側の予期せぬトラブルによって妨げられるリスクを無視できない。

消費者が短期的にスマートフォンやグラフィックスカードの値上がりを実感する可能性は低い。ただし、半導体メーカーが供給網の安全性を高めるために在庫を積み増したり、代替調達先の確保に投資したりすれば、追加コストが最終的に半導体価格などに反映される可能性はある。サプライチェーンの多様化に伴うコストは消えるのではなく、供給網の別の部分へと移っていく。

焦点は量産に耐える代替モーターの実用化

レアアースを使わないモーターには、研究開発段階や一部の産業用途ですでに選択肢がある。ただし、半導体工場では一般的な工場よりも高い安定性や清浄度、耐久性が求められる。TSMCが必要としているのは試作品ではなく、量産環境での検証を通過し、継続的に使用できるモーターだ。開発から認証、実際の導入までには通常、年単位の時間がかかる可能性がある。

今後の注目点は三つある。第一に、TSMCが決算説明会や年次報告書などでレアアースの供給リスクに言及するかどうか。第二に、設備メーカーがレアアースを使わないモーターの製品群を公表するかどうか。第三に、中国が輸出規制の対象をさらに拡大するかどうかだ。これらの動向によって、代替調達を急ぐ必要性も変わってくる。

今回の動きは、短期的には供給途絶に備えるための保険であり、中長期的には調達先の分散と交渉力の確保を狙ったものといえる。TSMCの動きだけで世界のレアアース供給構造が直ちに変わるわけではないが、設備メーカーや材料メーカーにとっては、中国産レアアースに依存しない製品の開発を進める契機となりそうだ。半導体のサプライチェーンを巡る競争は、最先端の製造装置だけでなく、モーターに組み込まれた小さな磁石から始まっている。

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